映画通じ教育を 配給会社の工藤さん アフガン舞台のアニメ、横浜で上映

工藤雅子さん

 幼少期に映画を通じて異文化を知った工藤雅子さんは、育まれた好奇心に導かれ、世界を股にかけて映画の宣伝をする“活動家”になった。「子ども時代にたくさんの映画に触れ、想像力を養ってほしい」。アニメーションなど子ども向け作品を扱う配給会社「チャイルド・フィルム」(埼玉県戸田市)を2011年に設立し、代表取締役を務める。手掛けるのは、映画から社会を学ぶ映画教育だ。独立から10年目。神奈川をはじめ各地でワークショップと合わせた映画鑑賞の場を企画するなど、教育分野での活用と普及に尽力している。

 映画館「シネマ・ジャック&ベティ」(横浜市中区)で上映される「ブレッドウィナー」は、19年4月に工藤さんが買い付けたアニメ作品だ。舞台は、米同時多発テロ事件後のアフガニスタン。主人公で11歳の女の子パヴァーナは、性差別が横行するタリバン政権下の首都カブールで両親と姉、幼い弟と暮らす。

 女性は「ヒジャブ」と呼ばれるベールで目以外を覆い、近親の男性と一緒でなければ外出できない。市場で買い物できないなど制約が多く、守らなければ罰せられた。苦しかった生活は、父がタリバンに連行され、ますます困窮。少女は髪を切り、「少年」として生きることを決意する。

 「ニュースで見聞きする『タリバン』という言葉からは紛争などを連想することが難しくても、混乱の中で生き抜く少女を通じて、世界で起きている事実を知ってほしい」

 昨年末、パヴァーナと同世代の生徒が通う東京都内の中高一貫の女子学校で、上映会を開いた。スクリーンを見詰める生徒たちの頬に光る涙を見た工藤さんは「異国のお話ではなく、“私の物語”として考えてくれている」と痛感。上映後の講座では、十人以上の生徒がパヴァーナ宛てに手紙を書いた。「布を取って外を歩ける日が来るといいね」「食べるものがあり、学校に行くことができる。当たり前と思っていた暮らしが、恵まれた世界なのだと気づいた」。つづられた言葉を前に「アニメには文化や国の違いを乗り越える力がある」と心強く感じた。

 映画が建築や絵画などと並ぶ「第七芸術」と位置づけられるフランスでは、映画が教育プログラムに組み込まれ、映画とともにその作品を紹介する教則本が制作されるなど、国が主導する形で映画教育が行われている。一方、映画を「娯楽」ととらえている日本では、教育分野での活用は民間任せの部分が少なくない。

 「映画鑑賞が『楽しかった』と受動的に終わらず、気づいたことがあれば何だろうと調べてみるなど、能動的に見てほしい」

 また、社会性のある作品を上映する映画館はミニシアターが多いが、中高生らは「敷居が高い」と敬遠しがちだ。「劇場の負担にならないよう企画を提案しながら、映画教育の実践者を増やしていきたい」

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 シネマ・ジャック&ベティでの上映は10日まで。詳細は同館。045(243)9800(午前9時半~午後9時)。

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