コロナでCAが医療支援も!CAが受けている厳しい救急救命訓練の内容とは?

コロナで医療態勢がひっ迫するヨーロッパ。CAが医療支援を!

新型コロナウィルスの感染拡大により、医療態勢がひっ迫するヨーロッパ。医療従事者の確保が課題となるなか、イギリスやスウェーデンでは客室乗務員に医療支援をしてもらう取り組みが始まるというニュースが報道されました。

 

イギリスではヴァージン・アトランティック航空とLCCのイージージェット、スウェーデンではノルウェー・デンマークと3国で共同設立したスカンジナビア航空の客室乗務員から希望者を募り、医療現場で医師や看護師の指示に従い業務を支援する取り組みが始まるとのことです。

 

現在多くの航空会社は渡航制限などの影響で減便や運休が増えていて、客室乗務員もフライトが激減したり一時解雇に追い込まれるなどの影響を受けています。

 

人が余っていると言える航空会社と、人員体制がひっ迫している医療現場が手を結んだこのような取り組みはとても素晴らしい人材活用だと感じました。

 

しかし、なぜ医療従事者ではないCAがこのような医療支援を行うことが出来るのでしょうか?

 

赤十字救急法救急員の資格も持つ元CAの筆者が、CAが受けている救急救命訓練について詳しくお伝えします。

 

 

 

厳しく高いレベルを求められるCAの保安要員としての役割

機内で笑顔を絶やさずサービスを行い、優雅な接客業と思われがちなCA。

 

もちろん接客要員としての業務も大切なのですが、実はそれよりも重要視されかつ高いレベルを求められるのが「保安要員」としての役割です。

 

保安要員とは、簡単に言うと「航空機の安全運航を守る役割」といえます。

 

それは航空機の安全とともに、機内の秩序やモラルが保たれているか、お客様に体調不良や急病などの異変がないかなどを常にチェックし確認する業務です。

 

そのため、CAは年に1度必ず非常事態に備えた通称「エマージェンシー訓練」と、救急救命訓練を受けなければなりません。

 

訓練に合格しなければその後の乗務を続けることはできないという、非常に厳しいものです。

 

CAはこの専門的で厳格な訓練を受けているからこそ、冒頭に紹介したような医療支援を行うことが出来るといえます。

 

 

気になるCAの救急救命訓練の内容は?

では、実際にどのような訓練を行っているのかご紹介しましょう。

 

CAの救急救命訓練は主に、座学と実技の2つのパートに分かれます。

 

筆者の航空会社では、座学はメディック・ファーストエイドという、アメリカの応急救護の手当の訓練プログラムを受講しました。

 

ビデオとテキスト用いて、やけどや打撲、骨折や出血といった外傷から、毒物による中毒や心筋梗塞、脳卒中といった病気の対処法まで幅広く学びます。

 

 

その後、人体模型を使って実技を行います。手順は以下の通りです。

 

人体模型を使った救急救命訓練の実技

1.傷病者を発見。周囲の安全を確認

いきなり傷病者に近づくのではなく、まずは自身の安全を確保することが重要です。

変な臭いや有毒なガスが漂っていないか、自身が怪我をしそうな障害物はないか、など確認します。

 

 

2.傷病者の意識の有無を確認

傷病者に呼びかけを行い、反応があるか意識の有無を確認します。

意識がなければ、周囲の人に協力を仰ぎ、救急車を呼びAEDを持ってきてもらうよう要請します。

 

航空機内では救急車はすぐには来られないので、他のCAに依頼し、機長に連絡します。

 

 

3.傷病者の呼吸の有無を確認

次に、傷病者の胸と口元を素早く観察し、自発呼吸があるか確認します。

呼吸がなかったり、異常な呼吸の場合は心肺蘇生を行います。

 

心肺蘇生は胸骨圧迫といういわゆる心臓マッサージと、人工呼吸をセットで行います。

そのため、私の勤務していた航空会社ではフライトの時、CAは「レサコ」という人工呼吸用マウスピースが携行必須でした。

 

 

4. AEDの使用

心肺蘇生を行っても意識や呼吸が戻らない場合は、AEDを使用します。

 

AEDは訓練でも実機を使い、傷病者が子供の場合や心臓ペースメーカーを使用している人など、様々な事例を想定して素早く判断できるように訓練します。

 

以上が一通りの内容です。

 

機内で医療従事者の後方支援を行うことも

機内にはAEDの他にもファーストエイドキット、ドクターズキット、メディカルキットと呼ばれるものが搭載されています。

 

ファーストエイドキットには、包帯やガーゼ類など応急処置に必要なものが入っており、CAは一通り使い方をマスターしています。

 

ドクターズキットやメディカルキットの中の機器は救急隊員や看護師、医師などの資格がないと扱えないものがほとんどです。そのためCAが使用することはありませんが、内容については把握しているため、医療資格のある方の後方支援を行うことが出来ます。

 

さらに、非常用装備品としてO2ボトルという100%濃度の酸素ボトルがあります。これを応急処置の一環で使用することもあります。

 

CAはこういった機内の装備品についても使用法を熟知し、万が一に備えて万全の準備でフライトに臨んでいるのです。

 

 

次のページ:筆者の実体験!機内でお客様が倒れたときの対応

 

目の前でお客様が倒れた!筆者の実体験

実際に私が遭遇した急病人発生の事例をご紹介します。

 

早朝フライトで、機内はほぼ満席。

朝早い便では、寝不足や低血圧などから体調を崩す方が特に多いので、お客様の様子に注意を払っていました。

 

すると、前方座席のお客様が突然立ち上がったため、目を向けるとその顔は真っ青でした。

 

「危ない!」と思い駆け寄るとその方はそのまま通路に倒れました。とっさにお客様の頭を包むようにしてかばい、頭部を打ちつけないようにしました。

 

ここからは訓練の内容を落ち着いてリマインドし、まずは意識の確認から始めました。

 

この場合、意識はあったので【意識、呼吸、血圧、脈拍、体温、顔色、瞳孔】などのバイタルサインを、機内搭載の血圧計や体温計でチェックしました。

 

着陸後救急車を呼ぶことを想定し、スムーズな引継ぎができるよう計測値をメモすることも重要です。

 

安全上通路に寝かせたままにはできないので、空いている座席にお客様を移動し、足を高くして寝かせ、状態を確認し続けました。

 

その間、他のCAは機内が騒然としないよう周りのお客様のケアを行ったり、機長に連絡するなど、CA同士でよく連携して事態の収拾に努めました。

 

幸い、お客様は回復されバイタルサインも問題なかったため、そのまま降りて行かれたのですが、降機にあたり車いすの使用や救急車の要請の有無も視野に入れ、確認を行いました。

 

さらに、この一部始終を時系列でメモを取り、今後の参考事例としてしっかり共有することも大切な業務の1つです。

 

業種を超えて連携することの重要性

いかがでしたか?

 

CAは単なる接客業以上の役割があり、非常時に備えた確かな知識をもってフライトに臨んでいます。

 

また、CAは航空機というとても閉鎖的で限られたリソースしかない空間でも最大限のことができるよう、仲間のCA同士で協力し合って状況を冷静に判断し、急病人などの非常事態に対処していることが分かっていただけたかと思います。

 

新型コロナウイルスの影響で、日本でもANAがCAの約8割にあたるおよそ6400名を一時帰休とする方針を発表するなど、現在乗務を外れているCAが多くいます。CAのこの鍛えられたスキルを、医療現場で活かせる機会があれば、筆者もぜひ協力したいと感じました。

 

世界的な危機を、業種を超えて各々が知恵やスキルを出し合って連携し、乗り越えていくことの重要性を、このニュースから強く感じました。

 

一日も早く収束し平穏な日々が訪れることを願ってやみません。

 

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