直面する問題を戯曲に 「文化芸術 いつか復活する」 佐世保拠点「劇団HIT!STAGE」新代表 森馨由さん

「作品はだいたい佐世保設定。地元公演で方言をいっぱい入れたりディスったりするとお客さん喜びますね」と語る森さん=長崎新聞佐世保支社

 佐世保市拠点の「劇団HIT!STAGE」(1997年結成)。団員は女性6人。外部の役者らとコラボレーションした新作「田丸家をぶっ壊せ!」は、新型コロナウイルスの感染拡大直前の長崎公演(2月)まで実施したが熊本、佐世保公演は延期となった。1人暮らしの父を気掛けながらそれぞれの生活で手いっぱいの4姉妹をユーモラスに描き、親子関係、老い、空き家、相続などさまざまな問題を浮き彫りにした作品。戯曲は同劇団の森馨由(もり・かおる)さん(46)。県内でも実力派の劇作家で、パート従業員として働きながら今月、同劇団代表の立場を田原佐知子さんから引き継いだ。
 森さんは、佐世保市立広田小から花高小、早岐中、県立佐世保東商業高(現佐世保東翔高)へ。「本はよく読んでいた。貧乏で本を買えなかったから図書館で借りて。サスペンス系、あと阿刀田高とか小池真理子、夏目漱石も。想像するのが好きだった」
 高校を卒業し、佐世保で就職。高校で演劇部に所属していた同級生の田原さんから97年の劇団立ち上げ時に誘われた。理由は「声が大きいから」。
 2001年にオープンしたアルカスSASEBOで、劇作家、演出家、俳優、映画監督の岩松了さん=東彼川棚町出身=を講師に招いた「演劇ワークショップ」に参加。演劇活性化を目指す活動「アルカス演劇さーくる」の一環で上演するオリジナル戯曲として、森さんが書いた「春の鯨」が選ばれた。「岩松さんは『うん』と(認めるようなことは)言わないけれど、選ばれたことは喜んでくれた」と振り返る。
 思い出深い自作の2作品がある。一つは岩松さん、演出家の別役実さん(3月3日死去)らが選考委員を務めた09年の第5回近松賞で、最終選考に残った「CASE3~よく学ぶ遺伝子~」。唯一、2人に褒められた。別役さんは会った際、「君はとにかくめちゃくちゃなこと書き続けてればいいよ」と言ってくれた。
 もう一つは、同じく09年の第1回九州戯曲賞で大賞を受賞した「白波の食卓」。大賞の副賞は、九州の役者たちが受賞作をリーディング公演するというもの。これをきっかけに九州の劇団員らとの出会いがあり、現在の客演やコラボにつながっている。
 書きたいことは年齢を重ねるにつれて変わってきたという。「田丸家-」の戯曲は「近所に空き家があることに気づいて、やがて離れみたいな所は取り壊され、誰かリフォームして住むのかと思ったけれど誰も来ない。庭はすごくきれいだった」。そんなちょっと不思議な様子を見ながらいろいろ想像を膨らませた。「でもやっぱり自分が今直面する問題を書きがちですね」。2年かけて書き上げた。
 劇団の魅力は、「ライブ感が好きなのかな。考え方が違う人が一つのものをつくっていくからけんかになりやすいけれど、その分、団結力は増す」。新型コロナで活動は打撃を受けた。「演劇は直接お客さんに見てもらってこそ伝わるものがいっぱい込められている。だから、公演ができなくなった時、ライブをユーチューブで流せばってよく言ってもらったけれどそれは最後の手段かなって」。当面パートの仕事をこなしながら時を待つ。「私は(感染拡大が)収まるのをみんなで待つべきじゃないかなって思う。人間生きていれば文化や芸術はいつか復活するから」

「田丸家をぶっ壊せ!」のワンシーン(森さん提供)

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