新型コロナで景気失速したアジア新興国の深刻な現状

新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。感染の中心地は、欧州や米国などに移っていますが、アジア新興国もそれぞれ緊急対応に追われています。

各国がどういった影響を受けているか、その中でどのような対応でこの事態を乗り切ろうとしているか、各国の置かれている現状と直近実施している政策等を挙げてみたいと思います。


深刻なサプライチェーン崩壊

現状アジア新興国で目立ってきたのが、新型コロナウイルスの感染者や死亡者数の増減よりも、経済の落ち込みです。直近発表されているいくつかの景気関連指標をみると、いずれの指標にも景気悪化の兆候が出てきています。

景気が減速している主な要因として考えられるのが、サプライチェーンの崩壊です。もともと、アジアの新興国は、製品製造における歯車の一部として重要な役割を担ってきましたが、米中貿易戦争にこのたびの新型コロナウイルス問題によって、その流れがほぼ完全に寸断されてしまいました。

サプライチェーンの問題は短期間に回復する可能性は低く、当面のアジア新興国にとって景気下押し要因になりそうです。

観光客減も景気失速に追い打ち

また景気悪化要因は、サプライチェーンの問題だけではありません。観光収入の減少も大きな懸念材料となっています。なぜなら、ここ数年は、外国人観光客からの観光収入が、アジア各国経済の中で主要産業のひとつとなっていたからです。

特に観光の落ち込みが経済全体にとって大きなダメージとなっているのがタイ。そのほか、マレーシア、フィリピン、インドネシア、ベトナムなどもダメージを受けています。当初は中国人観光客の減少が懸念材料でしたが、2月後半あたりからは、渡航禁止などを表明する国が増えているために、当面、長期的に観光の不振が続くこととなりそうです。

アジア新興国は相次いで利下げを実施

このような厳しい状況の中で、各国は緊急対応に追われています。直近、特に目立っているのが金融緩和です。米国や欧州などが利下げしたことに対する追随利下げの意味もありますが、アジア新興国は、そろって利下げを実施しています。

これまでほとんど政策金利を変更してこなかったマレーシア、韓国、タイ、台湾でさえ、利下げを実施しており、アジア新興国は中国を含めてほぼそろい踏みとなりました。

うち、マレーシア、タイ、韓国、台湾の政策金利は過去最低水準となっています。利下げの頻度、スピードはリーマンショックの時以上ですが、利下げしてもほぼ焼け石に水状態といえます。

<写真:ロイター/アフロ>

通貨安への懸念も

逆に、この各国の利下げは、通貨の下落という弊害にもつながっています。中でも最も通貨下落が目立つのがインドネシアルピアで、対米ドルレートの年初から3ヵ月間での期間騰落率は▲17%強と主要通貨のなかで突出した下落率となりました。直近の水準は1997年後半にアジア新興国を襲ったアジア通貨危機以来、約22年ぶりのレベルに達しています。

ジョコ政権発足以来つづいている経済成長率の減速、政権内の混乱、主要産品のひとつである資源関連需要の低迷など、インドネシア経済にとって景気押し下げ要因が山積しており、直近の通貨安はインドネシア売りであるといえます。

なお、直近、インドネシア政府は2月26日の第1弾、3月13日の第2弾と相次いで景気刺激策を発表しました。政策発表のスピード感という意味では評価できますが、問題はインドネシアの財政難です。

今回の刺激策の内容は、所得税の減免や輸出関連税の納付猶予などで、もともと財政難であるインドネシアの財政をさらに悪化させかねない、という意味で懸念要素です。この刺激策をもって、インドネシア経済の本格回復を期待するのは難しそうです。

<文:明松真一郎 市場情報部 アジア情報課長>

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