私立中学進学後も負担が増える教育費、「今からできることは?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、春から娘が私立中学に進学するという38歳の主婦。この先、高校・大学と進学することを考えると教育費が準備できるか不安だといいます。FPの前野彩氏がお答えします。

この春から、娘が私立中高一貫校に進学することが決まり、家計が不安です。見直した方がいい支出や、娘の進学に備えて今からできることがあれば教えてください。

学費は年間60万円程度ですが、高校に進学すると90万円程度になる見込みです。通学費も月1万8000円程度かかる見込みです。ほか習い事の英語に月8000円、通信教育に5000円かかります。英語は中学進学後に状況をみて辞める可能性があります。大学進学となると、自宅通学は難しく、国公立でも私立でも専門学校でも下宿になると思います。

また、中古住宅購入したため、定期的にメンテナンス代がかかっています。これまで、ボイラー工事、壁塗装、水回りとトイレ修理を行い、その度に100万円単位の支出があります。

夫は60歳で定年ですが、再雇用制度があり、嘱託で63歳まで働けるようです。ただ、年収は200万円前後になります。退職金は1500万円ほどです。私は、昨年よりWワークしており、夫の社会保険の扶養ギリギリでの働き方をしております。フルタイムへの転職は、地域柄求人が少なく、アルバイト求人が主です。また、近くに夫の父母(ともに72歳)がおり、今は元気ですが将来的にはケアが必要です。車が必須の地域なので、二台所有(コンパクトカー)しております。

〈相談者プロフィール〉

・女性、38歳、既婚(夫:43歳、団体職員)

・子ども1人:12歳

・職業:パート

・居住形態:持ち家(戸建て)

・毎月の手取り金額:35~37万円

(夫:27万円、妻:8~10万円)

・年間の手取りボーナス額:140万円

・毎月の世帯の支出目安:32万円

【支出の内訳】

・住居費:7万円

・食費:6万円

・水道光熱費:2.5~3万円

・教育費:1.5万円

・保険料:3万円

・通信費:1.5万円

・車両費:3万円

・お小遣い:3.5万円

・日用品代:1万円

・医療費:1万円

・その他:1.5万円(ペット代、レジャー代)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:財形1万円(天引き)、定期2万円、個人年金1万円

・ボーナスからの貯蓄額:50万円

・現在の貯蓄総額:300万円

・現在の投資総額:株式30万円

・現在の負債総額:1090万円(住宅ローン:借入額1650万円、金利0.77%、残期間16年)


前野:娘さんの私立中学合格、おめでとうございます! 合格が嬉しい反面、これからかかる教育費が心配になることでしょう。現在の家計や特別支出の把握、そして、ご主人の再雇用制度など、未来を考えるにあたって必要な情報をしっかりと把握していらっしゃいます。教育費の準備ができる土台は充分にありそうです。

高校は「就学支援金」で実質無償

娘さんの進学に合わせて、高校の学費もすでに90万円を見積もっていらっしゃいます。きっとこの90万円は、授業料のほかに制服代や学年費、修学旅行代なども入っていることでしょう。

ここで朗報があります。この春「私立高校就学支援金」の改正がありました。世帯年収約590万円未満で高校生1人のご家庭では、年間39万6000円の支援金を受けることができるようになります。つまり、私立高校授業料の実質無償化です。

ここで気になるのが所得制限です。パンフレットではわかりやすいように、夫婦二人の年収の合計額で書かれています。でも実際は年収では決まりません。判定基準は、「市町村民税の課税標準×6%-市町村民税の調整控除(1500円)」の夫婦合計額です。この額が15万4500円未満なら、年間39万6000円の支援金を受けることができ、15万4500円以上30万4200円未満なら年額11万8800円の支援金を受けることができるのです。

ご相談者の手取り収入から年収を逆算すると約120万円、ご主人の年収は約580万円、合計すると約700万円かと思われます。世帯年収の目安である約590万円の条件を超えますが、現在加入している個人年金保険料控除や生命保険料控除、介護医療保険料控除、地震保険料控除や医療費控除、あるいは、iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入したときの小規模企業共済等掛金控除などで控除が増えると、基準となる「市町村民税の課税標準」が下がるため、目安年収では超えていても、私立高校の39万6000円の支援金を受け取ることができる可能性があります。

住民税は、前年の状況によって判断されます。そのため、娘さんが高校入学前の年(中学2年生から3年生になる学年)は、家計のやりくりだけでなく、iDeCoや医療費控除など申請漏れがないように意識しましょう。

奨学金を活きた経済教育に

私立中学校から高校、大学、そして仕送り……というのは「できるだけのことをしてあげたい」という想いがあっても、家計負担は大きいはず。お子さん自身が学ぶお金ですから、進路に加えて家計や奨学金の話をすることで、活きた経済教育につなげましょう。

大学以降は下宿とのこと。最近は、大学独自の給付金や奨学金が増えています。大学選びの段階から大学独自の奨学金や寮情報を、親子で調べるようにしませんか。

奨学金の延滞がクローズアップされるようになってから、「子どもに奨学金を借りさせたくない」という親御さんもいらっしゃいます。確かに、奨学金の借り入れがないほうが、就職後のお子さんの家計は順調だと思います。ただ、延滞における実態調査を見ると、きちんと返還している人の9割は、申し込み前に返還義務を知っていますが、延滞している人たちの5割は申し込み前に返還が必要なことを知らず、また、卒業後(貸与終了後)に知った人も2割いるというのが現状です。奨学金や学費という子どもに直接かかるお金について、話し合う機会をつくってみませんか。

なお、教育資金は奨学金や教育ローンで借り入れることができ、マイホーム購入には住宅ローンがあります。でも、「老後ローン」はありません。家計が苦しい場合は奨学金を利用し、老後のめどが立ったら代わりに返還するという、柔軟なプランも検討してみてください。

家計で見直しの余地がある支出は?

家計の見直し余地があるのは、水道光熱費と保険料です。

お住まいの地域(東北地方)の水道光熱費の平均額は、月額約2万円です。季節柄変動はありますが、現在の支出は高めのようです。供給会社の見直しや使いかたなどを家族全員で話し合ってみてください。

次に保険料ですが、ご主人が厚生年金や健康保険に加入しており、さらに、住宅ローンの団体信用生命保険がある状況での保険料3万円は、保障が手厚すぎる可能性があります。

死亡時には、18歳未満の子どもがいる人が受け取れる遺族基礎年金(年間約100万円)と遺族厚生年金(給料や勤続年数によって異なる。子育て世帯での目安年40万円前後)がありますし、病気などで働けない場合は、健康保険から傷病手当金(給料の約3分の2)などのお金を受け取ることができます。

毎月の給与やボーナスから納めている社会保険料の中身をしっかりと確認して、多すぎる保障があれば減らすことで家計のプラスを増やしてみませんか。

なお、住宅に係るメンテナンス費用など、将来のイベント支出の把握がしっかりとできてらっしゃいます。マイホームのメンテナンス費用は必ず掛かりますから、外壁の塗装は何年おきに行うのか、次の水回りやボイラー交換はいつ頃なのか、など金額に加えて耐用年数を想定して、コツコツ貯めていきましょう。

現在も、年間100万円近いお金が貯蓄できています。住宅ローンがあと16年残っていますが、お子さんが就職する頃には学費と仕送り費がなくなるため、その分を繰り上げ返済や老後の貯蓄に回すことができます。ねんきんネットを使って老後の年金額をシミュレーションすると、老後の準備と教育の準備の両立がしやすくなります。

娘さんのための教育資金、そして、お二人の老後資金と、安心してお金が使えますように。

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