2025年までに「統一朝鮮」が誕生する!|茂木誠 米中覇権争いが激化していく一方で、朝鮮半島は2025年に向けて「統一朝鮮」への動きが活発化、それをアメリカは認めるだろう……起ころうとしている世界の大転換に日本はどう対峙すればよいのか。『地政学(地理+歴史+イデオロギー)』を武器に、駿台予備校大人気講師がズバリと指摘!(初出:『Hanada』2019年12月号)

韓国保守派は事大主義

「文在寅に感謝しよう」

そう言うと、『Hanada』の読者は何事かと思うかもしれません。しかし、文在寅が意図的としか思えない日韓関係の破壊を繰り返し、北朝鮮との関係改善、さらには統一に向けて前のめりな姿勢を示してくれたことで、「日韓友好」の幻想を抱き続けてきた日本人に、冷や水をぶっかけてくれた。このことに、日本人はむしろ「ありがとう、文在寅」というべきではないでしょうか。

もちろんこれまでも、端から韓国に対する幻想など抱いていない人たちもいましたが、今回の文在寅の振る舞いには、ついに日本人の一般層までもが、韓国に対する強い反発を抱くに至りました。

少し前まで、韓流ドラマや韓流アイドルを肯定的に扱っていたワイドショーまでもが、韓国批判を報じるようになりましたし、安倍内閣の対韓外交姿勢も、多くの人が支持しています。

世論調査によれば、韓国の「ホワイト国」除外について支持する人が67.6%、政権不支持層でも55.2%を超えるなど(FNN・産経新聞合同世論調査、2019年7月調査分)、お人好しの日本人もようやく目が覚めたといえるでしょう。

海洋国家日本は、大陸国家に極力かかわらないほうがいい。そのためにも、文在寅大統領には「いまの方向で、もっと頑張れ」と言っていいのではないでしょうか。何より、いくら日本が対韓関係を改善しようと動いても、もはや「北主導の統一朝鮮」という未来は不可避だからです。

韓国では保守派であれ、進歩派であれ、「反日」であることに変わりはないように見えますが、その内実は大きく異なっています。

韓国の保守派は親米で、外国からの助けを借りた軍事独裁政権をルーツとしています。この「外国からの助けを借りる」というところが要点で、韓国の保守派が親米派なのは、自由主義陣営であることを理由としているわけではありません。単に、強いものにつくという朝鮮民族の価値観、「事大主義」ゆえです。

親米派政権だった李明博・朴槿惠政権が米韓同盟を維持する一方で、中国の台頭をみるや対中融和政策に転じたことを思い出してください。親北派に比べて日韓関係を重んじていたのも、強い日本経済の助けに期待していたからで、これが期待できなくなれば反日に走る。要するに、韓国の保守派は、アメリカであれ、中国であれ、強いものに近づいていく「事大主義」的な勢力です。

断交を望んでいるのは韓国

一方、親北派は「南北統一」を至上命題とし、「朝鮮民族」の主体を回復することによって自主独立すべきだと考えています。そのため、戦後の韓国が米軍の駐留を許し、日本からの支援で経済発展したことを恥じているのです。

文在寅がこれまでの歴代政権以上に日韓関係を破壊しにかかっているのも、ここに理由があります。日本の干渉によって近代化し、米軍の占領下で独立し、1965年の日韓基本条約による日本からの経済支援で復興を成し遂げた過去を、彼らはすべて否定したいと思ってきました。文在寅をはじめとする親北派は、大韓民国の歴史そのものを「清算」したかったのです。

日本のメディアが「日韓断交」といった見出しの特集を組んで、日本の左派から批判されていますが、むしろ「断交」を望んでいるのは韓国側なのです。

それが及ぼす悪影響など、彼らは考慮しません。どこの国でも進歩派、リベラル政権には、「リアリズム」(現実主義)を軽視し、「アイデアリズム」(理想主義)だけでひた走る傾向があります。日本でいえば民主党政権、なかでも鳩山政権時代を思い出していただければ、実感できるでしょう。

問題は、理想主義だけでひた走る文在寅政権を、韓国民の約半数がいまだに支持していることです。

私は、2025年までには「統一朝鮮」が誕生し、韓国という国は消滅しているだろうと考えています。

もちろん、統一には北朝鮮の意向もかかわってきますが、これも問題ありません。『Hanada』2019年10月号で、篠原常一郎さんが「文在寅に朝鮮労働党秘密党員疑惑」を報じていましたが、文在寅の思想背景は、北朝鮮の指導理念と完全に一致しています。

チュチェ思想とは、簡単に言えば「マルキシズムの化粧を施した朱子学」であり、朝鮮民族という一つの有機体において、金一族が頭脳、朝鮮労働党が神経組織、軍などその他の国家組織が臓器にあたるという思想です。そのため、金体制と党の意志に従わないものは異物として排除される。

そして、チュチェ思想は朝鮮民族がどの大国にも屈せず、主体的に国家を運営するためのイデオロギーですから、自主独立を志向する韓国の親北派も飛びつく。しかも北朝鮮は核ミサイルを持ったのですから、朝鮮民族の独立を守るためのこの「宝」を手放すはずもない。

北朝鮮は韓国を、中国における香港のような立場に置くでしょう。つまり「一国二制度」です。核を持つ一方で、韓国から自由経済のおいしいところをストローのように吸い上げ、金正恩体制を生き永らえさせるための栄養源とする。ひいては、金正恩は朝鮮民族統合の象徴となるかもしれません。

米は「統一朝鮮」を容認する

韓国には、これまでも「統一朝鮮」を夢見た政権がありました。たとえば金大中は南北会談でノーベル平和賞を受賞、太陽政策を続けてきました。しかし、それでも統一がならなかったのは、常にアメリカが妨害してきたからです。

韓国の赤化、あるいは統一への動きがわかると、これまでのアメリカは即座に韓国に手を突っ込み、親米派を支えてきました。朴正煕による軍事クーデターなどは、まさにその典型でした。

今回も、本来ならアメリカが韓国の親米派軍部のクーデターを支援してもいいはずです。が、このような動きが今回見られないのは、アメリカのトップがトランプ大統領だからです。

トランプは大統領選の時点で、「在韓米軍を退く」という大戦略を明確にしていました。在韓米軍基地を縮小し、韓国を守るためにアメリカのリソースを費やしたくない「アメリカ・ファースト」のトランプと、民族統一の夢を追う文在寅の「朝鮮民族ファースト」は、奇妙な一致を見せているというわけです。

仮に2020年の選挙でトランプが敗けても、この方向性は変わらないでしょう。実はトランプだけではなく、アメリカ議会は民主党も共和党も、在韓米軍縮小の方向に動いているからです。

現在のアメリカの世界戦略にとって大事なのは、対北朝鮮・朝鮮半島情勢ではなく対中戦略です。その点で考えれば、在韓米軍基地を継続するよりも、台湾に基地を置くほうがいい。アメリカにとって、「反米・統一」に傾く韓国を防衛しなければならない理由はほぼなくなっているのです。アメリカは「統一朝鮮」を容認し、核保有すら黙認するでしょう。

さて、米軍の撤収後、核を持った「統一朝鮮」が中国につけば脅威になるのでは、という疑問を持つ方もいるかもしれません。

しかし、これは全くの誤解です。韓国の「事大」を中国に向けるのは保守派であり、親北派はチュチェ思想に基づき、外国勢力の力を借りない民族独立を志向しているからです。これは日・米だけではなく、中国に対しても同様。支配や干渉など、まっぴらごめんという立場なのです。

北朝鮮は朝鮮戦争で中国軍の支援を受けましたが、戦後は中国軍基地を置かせず、独自路線に転じました。とりわけ、金正恩体制になってから「脱中国」を加速させています。象徴的なのが、中国とのパイプ役といわれてきた叔父・張成沢の処刑、そして中国のエージェントだった実兄・金正男の暗殺です。これによって金正恩は実質的に、中国との紐帯を切ったのです。

ですから、「少なくとも北朝鮮は中国の傀儡であり、一蓮托生である」と考えるのは間違いなのです。

先祖返りする朝鮮半島

歴史的に見ても、朝鮮半島は中国大陸の政権に対しては面従腹背、つまり表では頭を下げていても、「いつか見てろよ」という気持ちを中国に対して持ち続けてきました。

朝鮮半島で最も長く続いた王朝は「李氏」朝鮮王朝で500年。李氏朝鮮は明の制度を全面的に取り入れ、中華思想のイデオロギーである朱子学を官学とすることでリアリズムを捨てました。明の崩壊後、李氏朝鮮は清に表面的には服属しながらも、実は面従腹背して清を内心見下し、「明の継承者はわが朝鮮なり」との小中華思想を持ち続けたのです。

この長期の間に染み付いた思考パターンは、国民性として骨の髄まで染み込んでおり、そう簡単に抜けるものではありません。まるで形状記憶シャツのように元に戻る、つまり「あの頃の朝鮮半島」に戻りたいと考える。分かりやすく言えば、いまの朝鮮半島は「先祖返り」しようとしているわけです。

アメリカはおそらくこのことをよくよく理解したうえで、「統一朝鮮」をむしろ中国の防波堤にしようと考えています。そのため、アメリカ本土には届かず、北京や上海には届く程度の核ミサイルの保持を、アメリカは許すことになるのです。

もちろん中国側は朝鮮半島、特に北朝鮮を自分の駒として使うためにたびたび介入してきました。しかし、張成沢処刑と金正男の暗殺によって金正恩は中国に「三行半」を突き付け、「核を持った以上、中国には従わない」という姿勢を明確にしています。トランプはこれを見て、「金正恩は使える」と思ったに違いありません。

だからこそトランプは、文在寅の頭ごしに金正恩との交渉を進めているのです。2019年6月にも、大阪G20の帰りに電撃的に板門店を訪問したトランプは金正恩とのトップ会談に臨み、文在寅は一歩下がって米朝会談を眺めるしかない立場に置かれました。金正恩から見れば、文在寅は自分に忠誠を誓うべき「労働党員」の一人に過ぎず、対等な交渉相手とは見ていないのです。

このような読み解きは、「地政学」によって裏付けられます。

日本では戦後、「地政学」は侵略につながる危険思想とみなされてきました。しかし各国首脳が地政学的観点から国家戦略を考えている以上、世界史を語るにも「地政学」的観点がなければ真の意味で理解することはできません。

日本は典型的な島国、海洋国家であり、自由貿易や経済合理性を重んじるシーパワー国家です。にもかかわらず、戦前は朝鮮半島の併合、中国大陸への進出というランドパワー的な方向へ進み、同じシーパワー国家である米英と戦争を始めてしまったところが大きな間違いでした。

統一朝鮮が直面する矛盾

一方、中国やロシアなどのランドパワー国家は陸軍を増強し、イデオロギーに基づく中央集権的な発想で、強力な国家権力と官僚機構による富の再分配を重視します。

強力な権力が農民たちをガッチリと管理し、分配することでさらに権威を高める。巨大な官僚機構による計画経済で国家を運営してきた中国・ロシアのランドパワー国家が、20世紀に共産主義を受容したのは当然の成り行きだったのです。

では、半島である韓国、ひいては「統一朝鮮」はどうなのか。シーパワー国家である日本やアメリカとの関係を希薄化し、ランドパワー化するのでしょうか。

ここに「統一朝鮮」が直面する矛盾が生じてきます。ランドパワー国家は歴史的に見て、必ず経済的に失敗してきました。崩壊したソビエト連邦や現在の北朝鮮がいい例でしょう。人間の理性では経済活動を完璧にコントロールすることはできませんから、北朝鮮もこのままランドパワー的発想でいる限り、崩壊の日がやってくる。

中国共産党はこの弱点を改革開放で乗り切ったかに見えますが、汚職が増え、格差が広がった。これに対する反動から、毛沢東的統制経済を継続したい習近平のグループと、改革開放を続けたい上海閥が、政権内部で熾烈な争いを展開しています。しかし米中貿易戦争で経済成長が鈍化している以上は、もはや分配すべき富も枯渇し、習近平路線は破綻するでしょう。中共は、崩壊する前に習近平を「総括」しなければならなくなるでしょう。

では、「統一朝鮮」はどうするのか。香港型の「一国二制度」によって韓国の自由主義経済を統一後も認めたうえで、そこから北が利益を吸い上げる。もちろん韓国経済は弱っていく一方ですが、シーパワー的な経済発展よりも民族の誇りを重視する文在寅政権を国民が支持し続ける以上、その方向で進むよりほかない。貧しいけれども誇り高い、朝鮮王朝の復活です。

もちろんいまの韓国にも、日米をはじめとするシーパワー、自由主義的な価値観で国家の発展を維持しようとする親米派がまだいます。しかし「事大主義」の誘惑に乗り、アメリカを凌ぐ大国になるかに見えた中国に接近したことで、アメリカの信頼を裏切ってしまいました。

日本との関係でも、「昼は反日、夜は親日」という隠れ親日派が少なからずいました。しかし結局は、親北派文在寅政権の成立で、シーパワー勢力との連携を模索する人々は政権からパージされてしまいました。

これは、かつて19世紀の朝鮮でも起きたことです。日本と組んで近代化を図ろうとした金玉均ら「開化派」が、政権によって粛清されました。彼らを支援するため、日本は日清・日露戦争に踏み切り、その結果として満州進出を図り、朝鮮半島や満州に莫大な投資をした挙句、敗戦ですべてを失い、感謝もされず、謝罪と反省を求められていまに至るのです。

大日本帝国に代わって韓国防衛を引き受けた米国は、朝鮮戦争期に日本を兵站として利用しました。日米は足並みを揃えて韓国の経済を支え続け、ニクソン訪中後は中国に対してさえ過剰に肩入れして、投資を行ってきました。

もし韓国や中国に対する政府開発援助(ODA)を日本国内に回していたら、「失われた30年」どころか、平成を通じて浮上することのなかった日本経済は、いまとは全く異なった状況になっていたでしょう。

大陸国家への過剰な関与が地政学的に致命的な間違いだったことを、まず誰よりも日本人が学習する必要があると思います。

地政学的観点と過去の歴史に学べば、日本は「統一朝鮮」の成立に関与せず、静観するべきでしょう。シーパワーたる日本は、むしろ台湾・東南アジア・豪州と連携すべきなのです。韓国に対しては、筑波大学名誉教授の古田博司さんが「助けるな、教えるな、かかわるな」という「非韓三原則」を唱えていらっしゃいますが、全く同感です。

地政学的観点を持った総理

安倍総理は、戦後には珍しい地政学的観点を持った政治家です。麻生財務大臣も外務大臣時代に「自由と繁栄の弧」という地政学的価値観を掲げていましたが、これは近年の日本の外交の大きな流れであり、今後も変わることはないでしょう。

特に安倍総理は第二次政権発足後、インド、オーストラリア、イギリスなどとの防衛協力体制を築くところまで踏み込んでいます。特筆すべきは、インド・ロシアとの関係を深めたことです。インド・ロシアをぎ止めることで、位置的にも中国を包囲できるという、まさに地政学的感覚をお持ちなのです。

民間を見てみても、冒頭で触れたように韓国に対する不信感は募り、強大化する中国に対しても、手放しで信じ切っているような人たちは少数派になりつつある。日本企業も中韓からは退いていくフェーズに入ってきました。だからこそ、安倍政権の支持率は高止まりしているのではないでしょうか。

これは安倍政権が世論を誘導したのではなく、むしろ世論が変わったことによって、政権がこのような外交姿勢を取れる土壌が生まれたというべきでしょう。

もちろん、このようなシーパワー的な発想を理解できず、自由経済よりも分配を重んじ、あるいはトランプよりも習近平こそ世界のリーダーであるべきだ、という権威主義を重んじるランドパワー的な発想をする人たちも、日本にはまだまだ存在しています。しかし彼らが日本のメインストリームになることは、今後はおそらくないでしょう。

安倍総理退陣後の日本外交が心配だという声もありますが、世論、とりわけ若年層が安倍路線を支持している以上、この流れはそう簡単には変わりません。政治家は世論を見て考え、動くものですから。

今後、東アジアは「統一朝鮮」誕生など大転換期、大きな分岐点を迎えます。しかし「地政学的」観点を身に付けた日本であれば、大きく国策を間違えることはない。私はまったく悲観していません。

茂木誠

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