ここに太陽が昇る

 「世界で最も有名な横断歩道」といわれる観光名所がロンドンにある。ビートルズのアルバム「アビイ・ロード」(1969年発表)が録音されたスタジオのそばにあり、ジャケット写真でメンバー4人が渡っている。ご存じの方も多いだろう▲いつもなら世界中からファンが引きも切らず訪れるが、通りはいま、静まり返っているという。コロナ禍で「名所巡り」どころではない▲これまで人が絶えず、改修もままならなかった横断歩道は、人影が消えたうちに塗り直された。ネットで見れば縦横の線は真っ白で真新しく、名所とは別物のようでもある▲このアルバムが世に出た翌年の4月10日、メンバーのポール・マッカートニーが脱退を表明し、ビートルズは事実上、解散した。きょうで50年になる。非常事態でなければ今頃、バンド末期の渾身(こんしん)の作にちなむ通りは、人であふれていたに違いない▲アビイ・ロードに「ヒア・カムズ・ザ・サン」という曲がある。ジョージ・ハリスンが優しく歌う。訳せば〈ここに太陽が昇る 太陽が昇る そして僕は言うんだ 大丈夫だと〉▲誰一人として、確信をもって「大丈夫」とは言えない折、日が昇り、光が差すのを待つ歌に、しばらく心を休める。たまには心の空気を入れ替えてごらんよ。そうささやくようでもある。(徹)

 


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