地方出身者の街

 東京の人口のうち「東京生まれの東京育ち」は5割を少し超える程度なのだ-という数字の話をどこかで聞いた覚えがある。残りの半分は地方出身者でできている大都会だ▲東京都が昨日、新型コロナウイルス特措法の緊急事態宣言に伴う企業や店舗への休業要請内容を発表した。残念なことに、印象に残ったのは要請の細かな中身よりも、対応を急いで感染拡大阻止に全力を挙げたい小池百合子知事と、決断に二の足を踏む政府の歩調の乱れ▲確かに難題には違いない。要請を急げば急ぐほど、対象範囲を広げれば広げるほど経済への打撃は大きくなる。要請は「補償」やその責任とセットでもある▲だが、緊急事態宣言は大きな痛みも伴う「もろ刃の剣」。覚悟を決めて抜かれたはずの剣だ。その先の具体策が“及び腰”では覚悟のほどが疑われる。政府の姿勢は「一貫性を欠く」と批判されても仕方ない▲家族や親族、知人の家族に近所の子…。半分近くが地方出身者の街-長崎に限らず、日本中の誰もが少し思いを巡らせれば「ああ、そういえば…」とそこに暮らす誰かの顔にたどり着くかもしれない街だ▲元気か、無事かと誰かを案じる日本中の視線を、政府はきちんと想像できているだろうか。事は単なるリーディングケースでも“東京限定”でもない。(智)

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