独大手シーメンスとパートナー契約 亀山電機 佐世保から世界へ 工業会企業の「技術力」・16

 まだ人影もまばらな早朝の砂浜に、静かに波が打ち寄せている。高知市の桂浜。「あなたならどうしますか」。代表取締役社長の北口功幸氏(54)は幕末の志士、坂本龍馬の銅像に語り掛けた。
 既成概念に縛られず、圧倒的な行動力で信念を貫いた生きざまに憧れた。龍馬が日本初の商社とされる「亀山社中」をつくったのと同じ31歳のとき、「自分の力を試したい」と考えて起業。毎年、龍馬の誕生日で命日でもある11月15日と、自らが生まれた7月25日に桂浜を訪ね、原点に返る。

ベルトコンベヤーの劣化を予知・予防保全するシステムの試作機=長崎市弁天町、亀山電機

 工場やオフィスを自動化する制御装置などの設計、製作、販売、保守を手掛ける。発電プラントや船舶用機械、浄水場などに導入。機械を制御するPLC(プログラマブルロジックコントローラ)で、世界有数のシェアを誇る独電機大手、シーメンス社製PLCのプログラム開発にも当たっている。
 シーメンス社は日本国内でのシェアは低かった。このため周囲からは、「シーメンスと組んでも金にならない」と疑問視された。それでも世界に視野を広げるという信念は揺らがなかった。世界水準の技術力が認められ、2008年に県内で唯一となるソリューション・パートナーの認定を受けた。
 同じころ、リーマン・ショックの影響を受け、売り上げが10%超も下がった。全国の企業を回って経営を一から学んだ。理念や経営状況などすべての情報を公開した経営計画書を作成することに。毎年更新し、全従業員に配布している。
 その後は業績を伸ばし、20年3月期決算では、過去最高となる10億円近い売り上げを見込む。東南アジア3カ国のシーメンスパートナーとも業務提携。海外展開を図る。「他の企業と同じことをやっていては生き残れない」。北口氏はこう言い切る。
 さらに、自社製品をもつ「メーカー」への一歩を踏み出している。現在は技術者の目視に頼っているベルトコンベヤー劣化の予知・予防保全システムを開発中だ。3Dカメラやセンサーを駆使して傷の有無や温度、振動といった情報を収集。ビッグデータ化して人工知能(AI)で分析し、故障などのトラブル防止を目指す。
 北口氏は今年、新会社をつくる。1人で創業し年商約10億円の企業にまで成長させた経験を基に、中小企業向けのコンサルティング事業を展開するという。「亀山社中」と名付けるつもりだ。
 昨年の11月15日。桂浜で新たな挑戦について報告した。「いいんじゃないの」。龍馬がほほ笑んでくれた気がした。

シーメンス社の制御装置を使った独リタール社の制御盤

◎亀山電機
 長崎市弁天町。北口功幸氏が1996年に設立した。従業員は86人(2月現在)。本社のほか佐世保事業所と大阪営業所、東京事務所、名古屋事務所がある。主な取引先は官公庁、MHPS、三菱重工機械システム、MHPSコントロールシステムズ、川重テクノロジー、双日マシナリーなど。

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