メクル第453号 全国で最も速く点滅する!? 「五島列島型」ホタル

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ゲンジボタルの成虫(上田浩一さん撮影)

 ホタルの一種「ゲンジボタル」は北海道と沖縄(おきなわ)以外の日本各地に生息していますが、発光の仕方には地域(ちいき)差があるそうです。中でも、五島列島のゲンジボタルの発光間隔(かんかく)は「1秒に1回」で、全国で最も速く点滅(てんめつ)することが最近分かりました。この「五島列島型」の研究発表をした長崎大学教育学部准教授(じゅんきょうじゅ)の大庭伸也(おおばしんや)さん(40)に詳(くわ)しく話を聞きました。

■発光器

 ホタルは世界で約2千種、日本では約50種生息するといわれています。そのうち一番大きいのがゲンジボタル。体長は12~18ミリくらいで、メスの方がオスより体が大きいそうです。5月から7月にかけて、きれいな川の周辺で、幻想(げんそう)的な光を放ちながらホタルが飛び交う光景は、初夏の風物詩として親しまれています。
 ホタルには腹部(ふくぶ)後方に「発光器」という器官があり、ここで化学反応(はんのう)を起こして発光します。オスとメスが繁殖(はんしょく)に向けてコミュニケーションを取るための信号の役割(やくわり)があるそうです。
 光の点滅パターンが異(こと)なることは以前から知られていました。東日本には4秒に1回ゆっくりと発光する「東日本型」が、西日本には2秒に1回の「西日本型」、東西の境目(さかいめ)になる山梨(やまなし)県付近には3秒に1回の「中間型」がいるそうです。

ゲンジボタルの点滅パターン

■遺伝子(いでんし)

 大庭さんは水生昆虫(こんちゅう)に詳しく、ゲンゴロウなどを研究してきました。2016年5月、五島市内でゲンジボタルを見て「明らかに点滅が速い」と思ったのがきっかけで、教え子の大学生沼田郁(ぬまたかおる)さんと、山口県下関(しものせき)市立豊田(とよた)ホタルの里ミュージアム学芸員の川野敬介(かわのけいすけ)さんと一緒に調査研究を行いました。
 16~18年にかけて県内を中心に約40カ所で、ゲンジボタルの動画を撮影(さつえい)して点滅パターンを比較。そのうち五島列島の宇久(うく)島、中通(なかどおり)島、若松(わかまつ)島、福江(ふくえ)島のゲンジボタルが1秒に1回点滅していることを突(つ)き止めました。大庭さんら研究グループは今年2月、これを「五島列島型」として、日本昆虫学会の英語版学術誌(ばんがくじゅつし)「エントモロジカル・サイエンス」に発表しました。
 調査(ちょうさ)地点ごとにホタルの遺伝子(いでんし)を調べましたが、五島列島と本土の間で大きな違(ちが)いはなく、姿(すがた)の違いも見られませんでした。なぜ五島列島だけ点滅が速いのかは、まだ分かっていません。
 「人の方言が異なるように、ホタルの点滅パターンも方言のようなものなのかもしれません。あるいは、五島列島は温暖(おんだん)なのでホタルの動きが活発になり、速く点滅するのかもしれません」。大庭さんはそう推測(すいそく)していて、「謎(なぞ)を解明(かいめい)したい」と意欲(いよく)満々です。

五島列島型の光跡=長崎県五島市富江町(上田浩一さん撮影)

 同じような条件で写真撮影してみても、違いはくっきり。五島列島型(写真上)は点滅が速いため光跡がほぼ線状につながって見えるけど、西日本型(写真下)では途切(とぎ)れ途切れで写っているね。

西日本型の光跡=山口県下関市(川野敬介さん撮影)

■美しさ

 大庭さんによると、五島列島型のゲンジボタルは点滅回数が速いため、とても見応(みごた)えがあるそうです。撮影に協力してくれた五島自然環境(かんきょう)ネットワーク代表の上田浩一(うえだこういち)さんの写真は、何匹(びき)もの光跡(こうせき)がしっかりとらえられていて、美しさと共に迫力(はくりょく)も感じられます。
 古くからホタルの光のショーは人々を魅了(みりょう)してきました。都市部などでは人工的な光が増(ふ)えて“カップル”の出合いが邪魔(じゃま)され、ホタルが生息できる場所が少なくなっているそうです。
 「五島列島型の発光は、まさしく五島でしか見ることができません。とても魅力的で五島の自然遺産(いさん)になると思います」と大庭さん。「そんな貴重な存在を後世に残すため、ホタルの幼虫(ようちゅう)の餌(えさ)となるカワニナなどが生息できる豊(ゆた)かな自然環境を守っていく必要があります」と言います。
 その上で、「もし本土のホタルを五島に放ったら、五島のホタルが影響(えいきょう)を受けて、ゆっくり点滅するようになるかもしれません。だから、やめてくださいね」と注意を呼(よ)び掛(か)けています。