MTV的映画「フラッシュダンス」と ジェリー・ブラッカイマーのメディアミックス 1983年 4月15日 映画「フラッシュダンス」が米国で劇場公開された日

輝かしい実績! ハリウッドの大プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマー

2000年代に入ってから、『CHASE チェイス / 逃亡者を追え!』、『HOSTAGES ホステージ』や、CSIシリーズなどの人気テレビドラマを手掛けてきた人物―― ジェリー・ブラッカイマー。ハリウッドの大プロデューサー。それ以前の代表作は『アルマゲドン』『パールハーバー』『パイレーツ・オブ・カリビアン』といった数々の大ヒット映画だ。

実に輝かしい実績を残しているが、これらの映画に共通するのは既存の “映画育ちの監督” ではなく、エイドリアン・ライン、トニー・スコットといった CM やミュージックビデオで斬新な映像センスを身につけた若い監督経験者を起用して大ヒット映画を量産してきたことである。

MTV的な映像表現、サウンドトラックからの大ヒット!

それまで映画は観て「考えるもの」だった。しかし、ブラッカイマーの登場以後、流行映画の文体はガラリと雰囲気を変えていく。速いテンポのカッティングとクールなポップミュージック… このときから大衆の認識は流行という風向きに倣って、映画は観て「感じるもの」に変容する。

その原点となるのが『フラッシュダンス』(1983年)。MTV的な映像表現を映画に初めて取り入れ成功した記念碑的な作品である。その後も『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)『トップガン』(1986年)『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)などが大ヒット。当時はデートに行くならこういうシャレた映画を観なけりゃダメだと感じたものだ。

だから、この当時に青春を謳歌した我々世代のレコード棚には必ずと言っていいほど、この手のサウンドトラックが眠っている。アイリーン・キャラの「フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング」、ボブ・シーガーの「シェイクダウン」、ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」、デイヴィッド・カヴァデールの「自由への旅立ち(The Last Note of Freedom)」とイカした曲ばかり。

エンタテインメント業界の在り方を変えた「フラッシュダンス」

1960~1970年代の音楽を聴いてきた古くからのロックファンはそんな産業ロックと言うかもしれない。でもシーガー、ロギンス、カヴァデールのような70年代を生き抜いてきたレジェンドを抜擢したからこそ実現した奇跡であると私は思う。

映画を売るための音楽、音楽を売るための映画―― 今であればごく普通のことだが、ブラッカイマー以前のハリウッド映画では、何の関係もない歌付きの音楽がアクションシーンなどに流れることはあまり無かった。

メディアミックスと言えば、日本では1970年代後半から映画と書籍と音楽を売りまくった「角川商法」の例がある。ブラッカイマーの現在の栄達を鑑みれば、それ以前に同じようなやり方で日本中に夢を売った角川春樹という映画プロデューサーがいかに凄かったのか理解できる。

しかし、ブラッカイマーのプロデュースは、その遥かに上を行く世界的な一大ムーブメントだった。『フラッシュダンス』をきっかけにエンタテインメント業界の在り方が変わったといっても過言ではないだろう。

※2016年1月14日、2018年4月15日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 鎌倉屋 武士

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