コロナショックと100年前の「スペイン風邪」の共通点

2月12日に米ダウ工業株30種平均は、2万9,568ドルと史上最高値を更新したものの3月23日に1万8,213ドルの年初来安値を付けました。

わずか28営業日で1万1,354ドルの下落と、2009年3月安値6,469ドルから今年2月の史上最高値2万9,568ドルまでの上昇幅2万3,099ドルに対する50%調整水準1万8,018ドルに接近。その後、今年4月の戻り高値が2万4,008ドルと51%戻りを達成しています。


1929年以降と似た相場環境

今からほぼ100年前のNY工業株平均(工業株12種)のチャートを見ると、スペイン風邪が終息した後の安値1921年8月安値63.90ドルから、世界大恐慌前夜の高値1929年9月高値まで上昇幅317.27ドルに対して、その後1929年11月に198.09ドルまで下落し57.5%の下落となりました。

その後の戻りは、1930年4月高値294.07ドルまで上昇し53.36%も上昇となっています。今年2月12日以降の下落トレンドと下げ率と戻り率が、同じような軌道を形成していることがわかります。

では今回の相場環境が1929年以降の展開に似ているから、1932年7月のボトム41.22ドルと同じように2009年3月安値6,469ドルまで下落するのか、というとそうではないと考えます。

1929年以降、NYダウと1990年以降の日経平均株価は共に(1)企業業績の低下と過熱した株高の逆相関、(2)政策当局と中央銀行の失政で極めて類似点が多く、いわゆる「金融恐慌」ではなかったかと思われます。

スペイン風邪「終息後」の動きは

今回の新型コロナウイルスのパターンは、第1次世界大戦中に起きたスペイン風邪のパターンに似ているように思われます。つまり、疫病の拡大に伴い消費活動の極度の落ち込みや生産活動の停滞などが起きるものの、疫病が終息しその後の混乱が一段落した後は、1921年以降のNY工業株平均(工業株12種)のチャートが非常に参考になると考えています。

つまり、第一次世界大戦後ヨーロッパの復興によって回収された債権は、ウォール街の金融市場に大量に流れ込み、不動産投機ブームなどを経た後にアメリカの各企業に投資されNYダウは投機的な上昇になりました。

新型コロナウイルスの終息後に調整局面があるかも知れませんが、その後に大きな上昇トレンドが発生した実例があることを知っていただきたいと思いました。

100年前にも起こった医療崩壊

100年前のスペイン風邪は、1918~1920年に世界各国で極めて多くの死者を出したインフルエンザによるパンデミックの俗称です。1918年1月から1920年12月までに世界中で5億人が感染したとされ、これは当時の世界人口の4分の1程度に相当します。

死者数は2,000万人から4,000万人との推計が多く、1億人に達した可能性も指摘されるなど人類史上最悪の感染症の1つでした。(患者数は回を追うごとに減少したようです)

第1波は1918年3月にアメリカのデトロイトなどで最初に流行したと言われ、アメリカ軍のヨーロッパ進軍と共に大西洋を渡り、当時中立国のスペインを中心に5月から6月にヨーロッパで流行。

第2波は1918年秋にほぼ世界中で同時に起こり、病原性がさらに強まり重篤な合併症を起こし死者が急増。

第3波は1919年春から秋にかけて、第2波と同じく世界で流行しました。さらに、最初に医師・看護師の感染者が多く医療体制が崩壊したため、感染被害が拡大しました。

今回世界中で起きている医療崩壊やデマによる混乱は、100年前の米国や日本でもほとんどの人がマスクをしている点、手洗いやうがいの励行など本当によく似ていると言えます。

しかし、電子顕微鏡のなかった時代と異なり、現在はワクチンや新薬の開発など医学の進歩は目覚ましいため、早期の終息が期待されるところです。

減税と金融政策の有効性

1929年恐慌後のNYダウは図の通り、初期対応の誤りから傷口が広がり1932年7月まで下落しました。その後は、ルーズベルト政権のニューディール政策、第二次世界大戦、朝鮮戦争などを経て、アイゼンハワー大統領に減税と金融緩和によって24年ぶりに1929年の高値を上回ることに成功したわけです。

減税と思い切った金融緩和は株高に効果が大きいという実例と言えそうです。日米欧の政府と中央銀行は足並みをそろえてこれを実行することで、危機を脱することが可能となるのではないでしょうか。

<文:投資情報部 高橋幸洋>

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