天王星の衛星が小さく形成された理由が解明

自転軸が約98度も傾いている天王星。横倒しになった原因は巨大衝突によるものと考えられていますが、天王星に対して小さく軽い衛星が、天王星の自転軸と同じように傾いた軌道で形成された理由は未解明です。今回、天王星の衛星が傾いた軌道で小さく形成された理由に迫った研究成果が発表されています。

■蒸気の円盤が再凝縮して氷になるまで衛星が形成されなかったためか

NASAの探査機「ボイジャー2号」が撮影した天王星の衛星「アリエル」(Credit: NASA/JPL)

海王星とともに巨大氷惑星に分類される天王星は、水素やヘリウムなどを含むガスの大気の下に、水、メタン、アンモニアなどの氷でできたマントルがあり、中心には岩石などでできた核が存在するとみられています。

井田茂氏(東京工業大学地球生命研究所)らの研究チームは、天王星が傾いた原因とされる巨大衝突が起きたときに生じたのは岩石の破片でできた円盤ではなく、氷が蒸発してできた蒸気の円盤だったと考え、この円盤から衛星が形成されるまでの過程を解析しました。すると、円盤の温度が下がり蒸気が氷に再凝縮して衛星が形成されるまでの間に、円盤を形成する物質の99パーセントが天王星に落下することがわかったといいます。

つまり、蒸気の円盤ではすぐに衛星が作られることはなく、衛星が作られるほど円盤が冷えるまでにはほとんどの物質が天王星に戻ってしまうため、衛星になるのは衝突時に放出された物質のうち1パーセントに過ぎず、結果として小さな衛星が誕生したというわけです。

衛星が巨大衝突により誕生したとする説では、衛星の軌道が天王星の自転軸と同じように傾いている理由を説明できます。しかし、天王星を横倒しにしたほどの巨大衝突では天王星の質量の1パーセントに相当する物質が放出され円盤を形成したと考えられていますが、実際には衛星を全部合わせても天王星の質量の0.01パーセントしかなく、質量の差が問題とされていました。今回の研究では、この問題を解決できる衛星の形成過程が示されたことになります。

■広がった円盤から形成されたとすれば別の問題も解決される

ボイジャー2号が撮影した天王星(Credit: NASA/JPL-Caltech)

巨大衝突によって生み出される円盤は惑星に近いところに形成されると考えられていますが、地球の月のように重い衛星の場合、重力を介した相互作用によって長い時間をかけて惑星から遠ざかっていくので、月が地球の近くにできた円盤から形成されたとしても現実と矛盾しません。

いっぽう、天王星の衛星は軽く、数十億年経っても天王星からほとんど遠ざからないとされています。そのため、巨大衝突の結果として天王星の衛星が誕生したと考えた場合、現在のように天王星から遠い場所を周回している理由が説明できなかったといいます。

今回の研究におけるシミュレーションでは、冷えて衛星が形成される頃の円盤の直径は元の直径の10倍にまで広がり、天王星から遠い場所でも衛星が形成されることが判明しました。さらに、現実の天王星と同様に、天王星から離れるほど重い衛星が形成されやすい傾向もシミュレーションにおいて示されたといいます。

研究チームは、氷惑星における巨大衝突では円盤の冷え方や広がり方に衛星の形成が左右されており、今回の研究成果が天王星に似ている海王星や氷を主成分とする太陽系外惑星にも適用できる可能性に言及しています。

今回の研究におけるシミュレーション結果を示した図。シミュレーション上で形成された衛星(赤)の質量や軌道は、現実の天王星の衛星(青)に近い(Credit: 東京工業大学地球生命研究所)

Image Credit: NASA/JPL
Source: 東京工業大学地球生命研究所
文/松村武宏

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