壱岐市の針路 白川市政4期目の課題・下 【SDGs】 永続的な島へ指針重要

「SDGs未来都市」の選定を知らせる横断幕=壱岐市芦辺町

 漁船がところ狭しと並ぶ勝本浦。県内有数の漁業基地として知られるが、以前ほどの活気はない。漁師の60代男性は渋い表情を見せる。「生計が立たない。今度機械の更新があれば廃業するしかない」
 壱岐周辺の漁業環境は、海水温の上昇や磯焼けなどで悪化。勝本町漁協によると、2019年度の漁獲高は前年度比約3億円減の約9億円まで落ち込んだ。組合員は計588人で10年前より200人以上減少。高齢化も進み、組合員の約3分の2は60代以上。20代は5人にとどまるという。
 漁業は壱岐市の基幹産業。市は漁場の変化を重く見ている。地球温暖化が要因の一つとし、昨年、全国の自治体で初めて「気候非常事態宣言」を議決。市内で使うエネルギーを50年までに再生可能エネルギーに完全移行するという。
 こうした施策は、市が推進する「持続可能な開発目標(SDGs)」に紐(ひも)付いている。
 SDGsは国連サミットで採択された17の国際目標のこと。「誰ひとり取り残さない」持続可能な社会の実現のため▽気候変動への対策▽住み続けられる町づくり-などの指針がある。18年、政府は初めて「SDGs未来都市」を公募し、29自治体を選定。北海道や横浜市などと並び、壱岐市も選ばれた。
 市長選で4選した白川博一氏は「壱岐の島を永続的な島にしよう」と述べた。人口減少、高齢化、1次産業の後継者不足といった課題を抱える同市にとって、SDGsの指針は重要だ。選定により、交付金などでプラスに働く面もある。
 市SDGs未来課によると、市は将来像に▽AIを活用した1次産業▽クリーンエネルギー-などを想定。現在はスマート農業などに取り組む。白川氏が公約に掲げた漁場の改善やまちづくり協議会の設置推進もSDGs絡みだ。
 産業振興や集落維持など幅広い概念を包含するSDGs。それだけに、市民から「分かりにくい」「よく知らない」といった声も聞かれる。同課も「市民への周知が課題」と認める。
 10年、30年先の同市を見据えた施策が求められる一方、足元の対策も欠かせない。勝本町の50代男性漁師は「(磯焼け対策は)2、3年で結果は出ない。今の生活のサポートがなければ厳しい」とうつむいた。
 白川氏が3期目から引き継いだ課題は、新型コロナウイルスの感染拡大により困難さを増している。長期的な将来像を示しつつ短期的な支援をいかに実現していくか。白川市政4期目は難しいかじ取りに迫られる。


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