コロナ禍「タワマン暴落」シナリオは本当か  不動産の未来は

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 新型コロナウイルスの感染拡大は、マンションやオフィスなど日本の不動産市場にも大きな影響を与えるのは間違いない。リモートワークによって働き方も人々の「居場所」も変わりつつある。「コロナ禍」とその後の市場の見通しなどについて、不動産コンサルタントの長嶋修氏に解説してもらった。

▽不動産市場が一変、公示地価が無意味に

 「不動産に対する堅調な需要が持続していることが、全国的な地価の回復傾向の広がりとして反映されたものと評価している」(不動産協会・菰田正信理事長)

 

 「三大都市圏や地方四市の堅調な上昇基調に加えて、地方圏の全用途平均・商業地が28 年ぶりに上昇となるなど全国的な回復傾向の広がりは歓迎したい」(全国宅地建物取引業協会連合会・坂本久会長)

 

 3月18日に公表された2020年の公示地価。業界関係者のコメントには一部、前向きな表現もみられた。

 

 しかし、公示地価はあくまで「1月1日時点」のデータだ。当然のごとく、新型コロナウイルスの感染拡大による「株価の大幅下落」「企業業績の落ち込み」「リモートワークの進展によるオフィス需要減」「インバウンド需要の激減」などの要素は織り込まれていなかった。公表時にはすでに日本でも新型コロナウイルスの感染拡大が広がっており、公表自体がまったく無意味なものになってしまった。

 

▽経済が停滞、不動産投資信託は半値に

 そもそも、昨年10月の消費増税以降、生産や消費などの経済指標は悪化しつつあったが、そこに今回の事態が重なった。影響は広がり、海外の多数の国や都市で都市封鎖(ロックダウン)などの措置が講じられ、日本でも各地で「緊急事態宣言」が発令されている。

 

 経済の停滞も鮮明になっている。街角の景況感を示す3月の景気ウオッチャー調査の家計動向関連DI(現状判断指数)は、1月に41.9から、3月には14.2まで落ち込んだ。訪日外国人客の急減や、外出自粛が大きく影響する飲食や小売り・サービス業など、すべての業種で大幅に悪化した。

 

 長年「地価全国ナンバーワン」を誇り、公示地価の上昇率が前年比プラス0.4パーセントとなった銀座4丁目交差点付近、リゾート地としての人気が高く同プラス57.5パーセントと全国トップだった北海道倶知安町、そして大阪や京都、沖縄などの主要な観光地も、全国的な外出自粛要請で、人出は大きく減っている。

 

 この影響で、不動産市場も一気にしぼんでいる。不動産投資信託(REIT)は、投資の理論では説明がつかないほど価格は下落。多くが公示地価公表時点の半値前後になってしまった。

 

▽オフィス需要にも影響か

 春節や花見などのイベントで、国内外からの観光需要を見込んでいたホテルは当然の如く業績が悪化。民泊施設やマンスリーマンションも含め、宿泊施設はほぼ「全滅」の状態となっている。むろん、貸会議室やイベント会場も同様だ。

 

 飲食店などのテナントが入るビルや、リモートワークの拡大で需要が落ち込んでいるオフィスにも大きな影響が出ているようだ。

 

 筆者が調べたところ、東京都内などの各所で、早くもオフィスビルの賃料などの条件交渉が始まっているようだ。今後、当面は空室の増加や賃料の下落は避けられないだろう。

 

▽工事の稼働は正常化したが…

 中国でまん延し始めたころは、現地の住宅資材や部品の工場の稼働がストップ。キッチンやユニットバスなどの納入が停滞し、新築マンションなどの工事が遅れたり、新規の着工ができない事態が発生したりした。しかし、工場が再稼働した現在ではこの状況は元に戻りつつある。

 

 しかし、その後日本で感染が拡大。新築マンションのモデルルームの来場者数は8~9割減少(4月上旬現在)しているという。来場者が減って休業に踏み切ったケースも多い。戸建て住宅などの注文も「様子見」ムードが広がり、減少しているという。今後も当面、その傾向は続くだろう。

 

▽マンション価格は株価と連動?

 千代田、中央、港の「(東京)都心3区」の中古マンション価格(成約㎡単価)は日経平均株価に近い動きを示す。新宿、渋谷両区を合わせた「都心5区」でも同様だ。

 

 日経平均株価は1月に2万4000円台の大台に乗ったものの、3月には1万6000円台まで急落した。4月中旬の時点で、終値は1万9000円台まで回復しているものの、今後の見通しは不透明と言わざるを得ない。都心のマンション価格も当面、株価と連動し低調な動きを示すのではないだろうか。

 

 そもそも昨年から今年にかけ、中古マンションの「売出価格(売主が最初に提示する価格)」と「成約価格(最終的に売買が成立する価格)」の開きが大きくなりつつあった。在庫も高止まりしていたところに、今回の問題が直撃した。

 

 現在、中古市場に出ている東京都心のマンションの多くは、かなり価格を下げないと売れないのではないかと筆者はみている。

 こうした状況の中、居住用賃貸物件だけが「大クラッシュ」から逃れることができているようだ。理由は言うまでもなく、どんな状況であっても住まいは必要だからだ。それでも、景気の低迷が長引けば、家賃が滞納されるケースが増えるなどし、賃料に影響が出るのは避けられないだろう。

 

 事態が変化するのは、コロナ禍が一定の収束をみせ、経済活動が再開し、かつ株価が回復したときだろう。「すべてはコロナにかかっている」と言わざるを得ない。

 

▽タワマンの価値は下がるか?

 感染拡大防止策の一環としてリモートワークが急速に浸透している。このため、通勤利便性の高い「都心・駅前・駅近」のタワーマンションなどの物件価値が大きく下がるのではないか、といった見方もある。

 

 もちろん、コロナ禍で一時的に価格は下がるだろう。だが、リモートワークが広がれば、対面のコミュニケーションの重要性が改めて見直されるのではないだろうか。長期的にみると、都心・駅前・駅近のタワマンなどのニーズは大きく変わらないと筆者は考えている。

 

 さらに、リモートワークにはWi-Fiなどのインターネット設備が必須だ。「Zoom」や「skype」などのツールを利用したウェブ会議が増えれば、居室内に書斎のようなスペースを確保することも必要になるだろう。

 

 タワマンなどの共用スペース内にある「スタディールーム」など、ビジネスに活用できる施設のニーズが高まる可能性もありそうだ。

 

▽コロナ禍後の日本は…

 最後に、コロナ禍の後の日本について、改めて考えてみたい。

 

 これから本格的な人口減少と少子・高齢化の時代に突入する。

 

 自治体の主要財源である住民税は減少するだろう。さらに、自治体の人口密度が低下すると、上下水道や道路などのインフラ修繕や、ゴミの収集、除雪などの行政サービスの効率が悪化し「税金のムダ使い」にもつながりかねない。インフラの維持効率を考えれば、限られた場所に人を集めざるを得なくなる。

 

 また、空き家が増加すれば街が荒廃し、犯罪の温床になる恐れもある。すると、周辺の不動産の資産性を失わせ、同じく自治体の主要財源である固定資産税収入の低下を招くだろう。

 

▽自治体の運営危機は東京近郊にも

 自治体の運営危機は、かつて地方固有の問題だった。しかし、今後リスクが浮かび上がってくるのは、東京都心などから30~40キロ圏内、ドア・トゥ・ドアで1時間~1時間半程度の「ベッドタウン」と呼ばれるところだ。

 

 1960~70年代にかけ「団塊の世代」とその前後の世代が一斉に住宅を求めて流入したベッドタウンは、若年層の流入がない限り、人口が減り始めると止まらないだろう。

 

 そこで、街を「人が集まって住むエリア」と「そうでないエリア」に思い切って分断し、行政効率や暮らしやすさを維持する「立地適正化計画」を、全国1741自治体のうち499の自治体が策定している(2019年12月現在)。同計画では、人が集まって住むエリアのことを「居住誘導区域」と呼ぶ。

 

▽居住誘導区域の「罠」

 埼玉県ではさいたま市、川越市、志木市、戸田市、春日部市、千葉県では松戸市、柏市、流山市、神奈川県では横須賀市、相模原市、藤沢市などが立地適正化計画の策定に乗り出し、居住誘導区域を設定した。

 

 しかし、各自治体のこうした取り組みは、実は大きな問題をはらんでいるのだ。

 

 というのも、この「居住誘導区域」の中に、地震や水害などで大きな被害を受ける可能性のある地域が多数含まれていることがわかってきたのだ。

 

 政府の運用指針には「リスクのある地域は原則として含めないこと」とある。一方で「リスクのある地域を居住誘導区域に含める場合には、災害リスクや警戒避難体制の整備等の防災対策等を総合的に勘案し(中略)立地適正化計画に各種の防災対策を記載することが望ましい」と、リスクのある地域の指定を許容するかのような文言が含まれていることもあって、自治体によって対応はまちまちなのだ。

 

 「土砂災害警戒区域」「浸水想定区域」などに自治体が誘導しているケースもあり「居住誘導区域なら安全」とはまったく言えない、といえる。

 

 ▽状況は変化する?

 しかし、今後こうした状況にも変化が生じると筆者は考えている。

 

 万一災害が起こったとき、自治体が責任を問われるケースも出てくるだろう。また災害対応にも行政のコストがかかる。そうなれば土砂災害や浸水の可能性のある地域は、相応の対応策が施されない限り、居住誘導区域から外れる可能性が高いのではないだろうか。

 

 また、浸水の可能性がない場所は金融機関による住宅ローンの担保評価が100%、浸水リスクのあるところでは50%になってしまうといった差もつきそうだ。つまりリスクの低いところは融資が出やすく、不動産の資産性も維持されやすい一方、リスクのあるところは融資が出にくく資産性も維持されにくくなる、というわけだ。

 

 楽天損害保険は今年、国内の損害保険会社で初めて、火災や風水害に備える住宅向け火災保険について、ハザードマップ上の水害リスクによって保険料率を見直す。高台などに立地する住宅に住む契約者の保険料は基準より1割近く下げる一方、川沿いや埋め立て地などに住む契約者の保険料を3~4割程度上げる。こうした動きは今後広がるに違いない。

 

▽「三極化」時代の家選び

 これから日本では、空き家が増え、一部の地域では不動産価格や賃料の下落を免れることはできないだろう。

 

 しかし、全国一律に起こるわけではなく、地域などによって「三極化」するとみている。「価値が落ちない、または落ちにくい地域」「ダラダラと下がる地域」「無価値になる地域」といった具合だ。

 

 今後、自宅を選ぶ際には、駅からの距離のほか、前述した災害のリスク、さらにはリモートワークなど新しい働き方に合った物件かどうかなど、様々な条件を考慮すべきではないだろうか。(さくら事務所会長=長嶋修)

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