「すべてを考えさせるのは難しい」―元巨人内野手が監督1年目で学んだ指導のバランス

BC栃木・寺内崇幸監督【写真:荒川祐史】

ルートインBCリーグ栃木・寺内崇幸監督は昨季就任1年目でチームを優勝に導く、インタビュー前編

 2018年まで巨人でプレーし、2019年から故郷の栃木ゴールデンブレーブスの監督に就任した寺内崇幸監督。昨年はNPB経験のある選手と若手を育てながら、リーグ参入3年目のチームを初の地区優勝に導き、リーグ制覇も成し遂げた。しかし、現在は新型コロナウイルスの影響で活動自粛。選手たちにとっては、野球について考える時間ができた――と言えば、聞こえはいいのだが、実際、そう簡単なものではない。「考える野球」が叫ばれる昨今で「すべてを考えさせるのは難しいですよね……」と選手の気持ちにも寄り添う指揮官に、この1年で得られたこと、自粛期間に選手に求めるものを聞いた。

 NPB同様、ルートインBCリーグも開幕戦は延期となった。栃木も3月中旬からキャンプインし、連覇に向けて試合をする準備を整えていた。練習は自粛となり、選手たちも外出を控えるように伝えた。

「僕たちは今、できることをやるしかないですし、シーズンが始まった時に準備不足で良いプレーが見せられないということではいけません。開幕がいつになるかはわかりませんが、選手たちにはしっかりと野球に対して準備はするようにとは言ってあります」

 スポーツジムにも行くことはできない。個々が自覚を持って、トレーニングに取り組むしかない。この期間、寺内監督が“生かしてほしい”と願うのは、今年から取り組んできた「座学」だった。これはともに戦う元ヤクルトの飯原誉士選手兼ヘッドコーチの発案だ。

「飯原コーチと話をしながら、普段から勉強というか、空いている時間を見つけて(座学を)やっていました。ミーティングの延長という感じではあるんですけど、トレーナーさんだったり、分野ごと(の専門家)に、いろいろと動いてもらい、話をしてくれていました。体のこと、食事のこと、睡眠のこと……野球だけやっていても、だめだというのはずっと思っていたので、そういう勉強ができたらいいと思ってやっていました」

 チームは県内にある「旧小山市立梁小学校」を改装し、活動拠点としている。そこで技術練習だけでなく“学校”さながらに机に向かって勉強する時間も作ってきた。元NPBプレーヤーの心構えや、トレーニングの専門家などから学んだ知識で、野球ができない今の時間が少しでも埋まってくれることを願う。

巨人時代は小笠原道大や谷佳知ら名打者たちに囲まれ、打撃技術を学んだ

 チームの目標はルートインBCリーグの連覇や、昨年、徳島に敗れた日本独立リーグ・グランドチャンピオンシップで勝利すること。そして、寺内監督自身にはもう1つ、心に秘める思いがある。NPBに栃木から選手を送り込むことだ。昨年はドラフト会議で指名を受ける選手はいなかった。

 寺内監督がNPBでプレーしたのは12年。それも常勝軍団で入れ替わりの激しい巨人で戦ってきた経験を踏まえて、独立リーガーにより強く思ってほしいことはどんなものなのだろうか。

「試合中、プレーで自分を助けてくれる人はいません。どんな時も、自分が責任を持たないといけないんです。監督に言われようが、コーチに言われたことをやった結果であろうが、全ての責任は自分にあるんだということを認識しないといけません。プロはそんなに甘くないですし、そういったことをいかに理解して、考えてプレーできるようになっていけるかどうかだと思います」

 考えて野球をする――野球人にとっては、大きな課題であり、それが成長を手助けする。だが、寺内監督は1年、指導をしてみて、感じたことがある。

「考えて野球をやるって意外と難しいのかなと思っています。昨年は『考えてほしい』『考えてほしい』と言い続けていましたが、“知らないこと”を考えることはできません。なので、ある程度、教えてしまうというか、手を差し伸べないといけないのかなと思っています。コーチングですけど、ある程度、ティーチングの部分が出てきてもしょうがないのかなと思っています。すべてを考えさせるというのはすごく難しいな、という思いもあります」

 現役時代、寺内監督は偉大な先輩たちに囲まれていた。小笠原道大、谷佳知、高橋由伸、阿部慎之助、鈴木尚広…彼らに積極的に打撃や走塁など野球の技術を聞いている姿が多く見られた。自分で考えて、教えてもらって、また考える。その繰り返しだった。

「全体練習の時間は限られていると思います。野球を考えている時間はすごく長かったですね。選手同士でも、野球の話をいっぱいしていました。自分のやりたいこと、どういう選手になりたいかのか――。選手は考える時間を大切にしていかないといけないと思います」

 指導するカテゴリーによって「考える」と「教える」のバランスは変わってくるが、寺内監督は第二の野球人生で、自分らしい指導法を模索しながら、目標に向かっている。

○…栃木ゴールデンブレーブスではスポーツギフティングサービス「Unlim(アンリム)」に登録し、運用していくことを発表した。好きなスポーツクラブやアスリートにファン個人が寄付を行うことができるサービスで、競技活動資金に充て新たな挑戦をしたい団体、選手らをサポートできる。寄付は「Unlim」のホームぺージから可能。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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