DeNAに広がる英語の輪 12球団唯一「チーム付英語教師」平川ブライアン先生に迫る

DeNAで「チーム付英語教師」を務める平川ブライアン先生【写真:佐藤直子】

今季開幕から連載「DeNAブライアン先生のWe☆Baseball」をスタート

 国際都市を謳う横浜を本拠とするDeNAは、球団内も国際色豊かだ。ここ数年、横浜スタジアムではより多くの英語が飛び交うようになってきた。もちろん、ベネズエラ出身のアレックス・ラミレス監督がチームの指揮を執る影響は大きいが、もう1人、チーム内に英語の輪を広げている人物がいる。それが「チーム付英語教師」を務める平川ブライアン先生だ。

 ブライアン先生が12球団唯一のポジション、「チーム付英語教師」に就いたのは、2018年1月のこと。それまでは、主に保険数理を教える数学の非常勤講師をしていた。

「ベイスターズが英語教師を探しているのは、実は妻が見つけてきたんです。『あなたベイスターズで働きたい?』と聞くので、『プロ野球チームの? もちろん!』と二つ返事。そこから応募して採用されました」

 米カリフォルニア州サンディエゴ近郊で育ったブライアン先生が、初めて日本にやってきたのは1998年のこと。大学を卒業後、千葉で英語教師として働き始めた。日本人女性と結婚、大学院進学で帰国したり、日米間を行き来した後、2004年から家族でアメリカに帰国。「高校で数学の教師をしていました。簡単な代数から微分積分など教えていたんですよ」。アメリカで12年を過ごした後、再び一家で来日。現在に至る。

 DeNAとは不思議な縁で繋がっていた。初来日した1998年10月某日、当時住んでいた木更津からバスに乗り、初めて横浜に遊びに来た。バスターミナルに到着し、百貨店前の広場に向かうと、そこには黒山の人だかり。特設ビジョンに映し出される野球の試合に釘付けで、夢中になって応援していた。大声援を受けていたチームこそ、日本シリーズを戦う横浜ベイスターズ(当時)だった。この年、38年ぶりの日本一に輝いたチームと街の盛り上がりに偶然触れたわけだが、「あの光景はしっかり覚えています」と笑顔を見せる。

 では「チーム付英語教師」とは、一体どんな仕事なのだろう。主な生徒は、コーチやトレーナーらチームスタッフ、球団職員たち。1回のレッスンは40~45分で、生徒のレベルに合わせて1~2人で行われる。基本は対面形式だが、テレビ電話を使った遠隔レッスンになることも。「野球がトピックになることが多いですが、私生活のことだったり、身近な話題について英語でコミュニケーションを取ります」という。

 外国語を学ぶ時のポイントは「聞く力をアップさせること」だと話す。「会話で大切なのは聞くこと。相手が何を言っているのか分からなければ、英語を喋ることはできても答えられず、会話は止まってしまいます。赤ちゃんが言葉を話す過程も一緒。聞いて聞いて、まずは耳を養うことが大切です」

主な生徒はチームスタッフや球団職員、進歩も実感「この前、ヤスアキが…」

 親しみやすい人柄もあり、レッスンは大好評。時には、朝から晩までレッスンの予約でビッシリと埋まることもある。

 DeNAは2018年にはオーストラリアのキャンベラ・キャバルリー、2019年にはMLBのアリゾナ・ダイヤモンドバックスと業務提携し、事業面での人材交流やオフシーズン中の選手の派遣など、国際的なネットワークを広げている。そのため「トレーナーやコーチが外国人選手と英語でコミュニケーションを取ったり、球団スタッフが海外の提携球団と円滑に業務を進められるような英語を教えています」と実用的な英語も伝授。チームを縁の下でサポートしている。

 もちろん、英語習得に興味を持つ選手も多い。選手とレッスンの時間を設けてはいないが、キャンプインからブライアン先生はチームに同行するため、練習中や遠征先の食事会場など、英語でコミュニケーションを取る機会を作っているという。

 英語教師となり、今年で3年目。生徒たちの進歩を感じることも多い。こんなうれしいエピソードもあった。

「この前、ヤスアキ(山崎康晃)が来て『ブライアン、前よりチーム内で英語をよく聞くようになったね』と言ってくれたんです。私は感動しました。周りの人が変化に気付いてくれたことが、何よりうれしかったです」

 英語を教えると同時に、野球について学んでいる。小学生から大学生までサッカーをプレーしてきた。だが、スポーツ全般が好きで「地元サンディエゴ・パドレスの大ファンです」。子どもの頃から球場に足繁く通い、家ではテレビ中継を欠かさず見ていたという。だが、DeNAで働き始め、自身の“野球ID”の低さを実感したという。

「ファンとして、野球のルールや状況を理解することはできます。でも、なんでバントなのか、なんでスクイズをしたのかが分からなかった。それを生徒でもあるチームスタッフに聞くと、その理由をみんな分かっているんです。アメージング。野球を心底理解しているんですね。私の野球IDはゼロだということに気付きました。この2年間、私はハイレベルな野球を勉強させてもらっています。ようやく野球IDは15くらいまでアップしました(笑)。ボールの投げ方も教わっていて、1年目はフォーシーム、2年目はツーシーム、今年はカットボールを練習中です」

「Full-Count」で英語レッスン開講「野球観戦を楽しめるお手伝いができたら」

 日本球界では、アメリカでは聞き慣れない野球英語が使われていることがある。例えば、デッドボール、フォアボール、エンタイトルツーベース……。その違いに触れる度、ブライアン先生の好奇心がくすぐられるようだ。

「おそらくカタカナ英語から生まれた野球英語だと思います。確かにアメリカ人は使わないけれど、言われてみれば『なるほど』と理解できる。例えば『ランニングホームラン』や『3アウトチェンジ』。明らかに英語のはずですが、アメリカではそういう表現はしません。『ツーベース』『スリーベース』とも言いませんし、『ゲッツー』も私たちは『ターンツー』と言います。こういう違いは面白いですね」

 今季から「Full-Count」ではブライアン先生と強力タッグを組み、野球ファンが楽しめる英語レッスンシリーズ「DeNAブライアン先生のWe☆Baseball」を開講する。「日本のファンがアメリカで使う野球英語に対する理解を深め、さらに野球観戦を楽しめるお手伝いができたらうれしいですね」とブライアン先生。簡単な野球英語から、野球英語から派生したビジネスシーンでも使えるフレーズなど、幅広いレベルの英語レッスンをお届けする。

 最後に、ブライアン先生の一番のお気に入りで、外国人選手は誰もが「オー、なんてクールなんだ!」と大喜びするという日本の野球用語を教えてくれた。

「それは『サヨナラホームラン(ヒット)』です。英語では『walk-off homerun(hit)』『game-ending homerun(hit)』と言いますが、『サヨナラホームラン』の方が断然クールな響きを持っていますね。今年から加わったオースティンやピープルズにも『日本では試合を終わらせるホームランをなんと呼ぶか知ってる?』と聞いたら『知らない』というので、早速教えてあげたら『オー、それはクールだ!』と大喜びでした(笑)。ぜひ外国人の友達がいたら教えてみてください」

 4月20日からスタートする英語レッスンシリーズ「DeNAブライアン先生のWe☆Baseball」。乞うご期待。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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