選書にも対応 3月以降、ネット販売増える「ひとやすみ書店」

城下さんが選んだ個性的な本が並ぶ店内=長崎市諏訪町、ひとやすみ書店

 自分は何をしたいのか。学生時代、そう考えた時、本を手に取った。「そこに『答え』がある気がして。でも、あったのは『問い』でした」。「答え」は自分の人生の中で探していくしかないと気付かされた。ある書店店主の話である。
 長崎市中心部の中島川沿い。ひっそりとたたずむ1軒の本屋。「ひとやすみ書店」。アパートの一室を改築した8坪ほどの店内は、換気のために窓は開けられ、時折、ひんやりとした空気が流れ込んでいた。
 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、外出自粛が求められている。自宅で有意義に過ごす手段として、本を選択する人が増えているのではないか。そう思い、店をのぞいた。
 「本は別に読まなきゃいけないものではないです」。そう話すのは店主の城下康明さん(35)。「本は肌に合う人にとってはすてきなもの。今回、家で過ごす時間が増えたことで、元々肌に合う可能性があった人が本に出合ってくれればうれしいですね」。マスク越しに目尻を下げた。
 店にはえりすぐられた、こだわりの本が並ぶ。3月以降は、ツイッターなど会員制交流サイト(SNS)を通じたネット販売が増えているという。大手の通販サイトと違い、城下さんは指定されたテーマや気分に合わせて本を選ぶ「選書」にも快く応じている。
 4月、県外の男性から、こんなオーダーが入った。
 「読んだ後、18歳の娘に『これ読みな』と渡したいんですよね。そんな本を3冊選んでいただけないでしょうか」
 親子が本を手に取る姿を想像しながら、自身が過去に読んだ作品の中から、今回は絵本や詩集を選んだ。「医学用語の出てこない本」を求めていた知り合いの医師には、旅行記やエッセーを選択。特別なテーマはなく、直面する不安や悩みを切実につづっただけのメッセージも届く。
 誰もがスマートフォンを持ち、深く考えず、真偽も不明なまま、多くの情報を手にできる今。そんな時代だからこそ、本への信頼は増しているのでは、と城下さんは考える。「自分を見つめ、自分で考えることが大事。本に『答え』はないかもしれないが、きっかけを与える手段にはなり得るかもしれないですね」。最後まで自然体を崩さず、そう言った。
◇ ◇ ◇
 本の通販は「ひとやすみ書店」のツイッター、フェイスブック、インスタグラムから。問い合わせは同店(電095.895.8523)。

© 株式会社長崎新聞社