伊藤市長銃撃から13年 献花台なく墓前に追悼

事件発生から13年となった17日、伊藤元市長の墓を訪ねた田川さん。帰り際に「また来るよ」と語り掛けた=長崎市下黒崎町

 長崎市長だった伊藤一長氏=当時(61)=が2007年、市長選の最中に凶弾に倒れた事件は、17日で発生から13年となった。市は昨年の13回忌を節目と位置付け、今年から事件現場での献花台設置を取りやめた。生前、親交があった関係者は墓前で手を合わせるなどし、故人を悼んだ。
 「また会いに来たよ」。元後援会長の田川安浩さん(84)は同日、市内にある伊藤氏の墓を訪れ、そう声を掛けた。海を望む高台。ここで景色を眺めていると、さまざまな思いが去来する。
 13年前。選挙期間中は、いつも一緒に行動していたのに、あの時だけは違った。個人演説会の打ち合わせの途中、伊藤氏は報道各社の取材を受けるため選挙事務所に戻ることに。「会議を続けとってくれんね」。これが最期の会話となった。
 付いて行かなかったことを後悔した。ただ、生かされた自分には「残された任務」があると考えるようにした。事件後、後援会有志で「偲鳥(しちょう)会」をつくり、毎年、事件現場で追悼してきた。
 「長崎のために力を尽くした。もっと長く生きていてくれていたなら、と思う」。田川さんは墓石を見詰め、つぶやいた。
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 偲鳥会は会員の高齢化もあり、昨年、解散。事件で逮捕された暴力団幹部(当時)で、殺人などの罪で無期懲役が確定した城尾哲彌受刑者は、今年1月に死亡した。献花台がない現場で立ち止まる人はほとんどおらず、時の経過を感じさせる。
 事件発生時刻の午後7時50分すぎ。足早に通り過ぎる人が多い中、1人の男性が足を止めた。「時間はたっても伊藤さんへの思いは変わっていない」。男性はそう語り、静かに手を合わせた。

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