欧州に押される「国産セダン」 カローラやマツダ3が持ち直してきたワケ

クルマの基本的な形と言われている4ドアセダン。それでも世の中、多様性の時代とでも言われるように“セダン不況”がすっかり定着した感じがあります。

セダンは、本当にクルマ選びの選択肢の上位に入ることができないのでしょうか? もし不足しているものがあるとすれば、それはなんでしょうか?


欧州ライバルの存在

セダンですが、まず横から見て、エンジンが収まるボンネットがあり、その後方に4ドアのキャビン、さらに後方にはキャビンとは独立した荷室を持っているクルマのことを言います。最近ではクーペとセダン、あるいはハッチバックとセダンといった、クロスオーバーもセダンと呼んだり、かなりその分類は、入り組んでいます。そこで今回はボンネット、キャビン、トランクが独立し、「3ボックス」と呼ばれているオーソドックスなスタイルのセダンに注目してみました。

最近、国産セダンに立て続けに乗る機会を得ました。トヨタ・カローラ、マツダ3、スバル・インプレッサG4、そして少し車格は違いますが日産スカイライン400Rなどです。どのクルマもキャビンには大人4人がゆったり乗れて、キャビンと独立したトランクには乗員分の荷物を楽々と収めることができ、もちろん機械式駐車場にも入り、実用面では、ほとんど不満のないクルマばかりでした。

スカイライン400Rが、スーパースポーツセダンと呼べるだけの実力を備えていることは以前にレポートしました。おまけにスカイラインシリーズ全体で見れば、ハイブリッドモデルは「プロパイロット2」というハンズオフ(手放し運転)を可能にした世界最先端の運転支援システムという武器があります。おまけに、スカイラインというブランドは一定数の支持者がいるなどしっかりとキャラが立っています。それなりに健闘しているのではないかと思い、数字をチェックしてみました。

2019年の登録台数は1か月平均で300台少々。昨年の登録台数1位となったトヨタ・プリウスが1万500台以上ですから、スカイラインは50分の1ということになります。スカイラインほどのキャラでも、昨今はなかなか上昇気流に乗るといった状況ではないようです。

丸型4灯のリアランプもスカイライン伝統のデザイン

スカイラインがもっとも元気だったケンメリ時代を知る一人としては少々寂しいのですが、価格の高めのプレミアムスポーツセダンを見ると、けっこう輸入車に魅力的な存在があったりで、苦戦も仕方ないのかもしれません。それでもメーカーがもう少し上手にアピールしてくれれば、多少なりとも元気が出るかもしれません。

そんな時に乗ったのが大衆車価格のトヨタのカローラ・セダンでした。ここからは200万円台のセダンを中心に見ていきましょう。

営業車ぽさが薄まったデザイン

かつての登録台数トップの常連、カローラも、いまはプリウスやアクアなどにその座を奪われています。ところが昨年の10月、カローラシリーズの販売台数が1万1,190台(日本自動車販売協会連合会発表)を記録し、久しぶりに販売ランキングで1位となりました。当然、車名別販売台数ランキングでカローラがトップに立った、というニュースは業界にちょっとした衝撃を与えました。カローラが首位を奪還したのは2008年11月以来、約11年ぶりだそうです。

存在感あるフロントマスクがセダンデザインと合っている

最大の要因は19年9月に行われたフルモデルチェンジで12代目が登場したことにあります。ハイブリッドにガソリン車とエンジンもトヨタらしくきめ細かで守備範囲が広くするなど、新型車効果が大きかったのでしょう。デビューの段階での月販目標台数は、セダンのカローラが1,700台、ワゴンのカローラツーリングが5,400台、そしてハッチバックのカローラスポーツが2,300台という内訳です。

カローラシリーズ全体の販売実績で見ると、ここでも一番の立役者はセダンではなく、ワゴンモデルのツーリングということになります。確かに今度のツーリング、若い人たちへのアピールがとても上手く出来ていると思います。スポーティなデザインが本来、SUVなどに行く人たちに待ったをかけたこともあったでしょう。営業車っぽい雰囲気がすっかり希薄になったデザインは、この支持率の高さに現れているのだと思います。

上質なデザインのリアスタイルはカローラセダンの注目ポイント

“若い人狙い”のデザインがセダンにも十分に生かされていると感じたのは、試乗会でリアスタイルを撮影しているときでした。これまでのカローラ・セダンと言えば、営業マンご用達で知られるように“あまり目立たず、かといって埋もれず”という、意地悪に言えば、「事なかれ」っぽい雰囲気で捉えられていました。ところが「今度のカローラ、カッコいいな」と素直に感じる目立ち度なのです。

とくにリアランプ部分の上質感はけっこう魅力的に感じました。最近のトヨタ顔が慣れないという方も多いのは分かりますが、これでフロントマスクとリアスタイルの整合性がキッチリと付いた感じのデザインで、「悪くないな」と思いました。

そして、デザインということではマツダ3のセダンも注目したいです。

200万円台セダンに期待

先日もお伝えしましたが、マツダ3は「ワールドカーアワード(WCA)」では大賞ファイナリストの3台にも入り、そして「ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー」を受賞しています。デザインが魅力というのは当然のことかもしれません。しかし、そのデザインの評価の主役にいるのはやはり5ドアハッチ。注目度で言えばセダンは少し低くなります。確かに太く存在感抜群のCピラーを持つハッチバックは目立ちます。

対してセダンはハッチバックより200mm長いボディで、前後に伸びやかなデザインとなっています。全体の印象としてはハッチバックほどのインパクトはないのですが、一回り大きく、同時にスポーティな印象を与えるデザインだと思います。とくに横から見たときのデザインは印象的です。

一回り大きく感じるマツダ3セダンのデザイン

前後へサイズが伸びたことでキャビンの前後長、とくにリアシートの足元、そしてトランクスペースにゆとりが生まれました。デザインと実用性の両方で魅力を発揮したパッケージングかもしれません。

このマツダ3の月販目標台数はセダンとハッチバックを合わせて2,000台です。デビュー当初はデザインの話題性もあったのですが、実際には選べるエンジンが1.5Lのガソリンエンジンと1.8Lのディーゼルエンジンだけというラインナップ。新車効果を十分に生かすことができるラインナップではありませんでした。

それを証明するように、2.0Lのガソリンエンジンが加わってからは販売台数がグッと持ち直して、新世代エンジン、スカイアクティブXも多少寄与しているとは思います。その結果としては昨年の月平均の販売台数は3,500台あまり。なんとか目標台数はクリアしたことになるのですが、デザインが魅力的であるだけに、車種構成や投入タイミングにユーザーの戸惑いが見えたのが少しもったいなかったと感じました。

フロントからリアに掛けて走るウエストラインがシャープ

それにしてもこのクラスのセダンに魅力的な存在が多く登場してきたことは嬉しいことだと思います。そしてまだじっくりと試すことができていないスバル・インプレッサG4やホンダ・シビックセダンの存在がとても気になり出しました。

200万円台に魅力的なモデルが揃いだした国産セダン。爆発的とは言えないでしょうが、少しはセダン市場に元気が出てくれることに期待したいと思います。

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