石炭灰から断熱タイル開発 発案から20年 商品化実現に期待

電球を当て、タイルの表と裏の温度を調べる試験

 長崎市琴海村松町の72歳の男性が、火力発電の過程で発生するパウダー状の石炭灰(フライアッシュ)を再利用した断熱タイルを開発し、自身初の特許を取得した。発案から取得までに要した時間は約20年。建材として普及すれば省エネにつながるのではと、商品化実現に期待している。

 男性は西彼長与町のアルミ加工会社会長、山崎勉さん(72)。取得した特許「独立発泡タイルの製造法および独立発泡タイル」は、タイルの中に閉じ込めたたくさんの気泡が独立しているのが特徴だ。気泡がつながった一般的な連続発泡とは異なり、タイルの中で空気が流れず、熱が伝わりにくい。厚さ3センチのタイルに8センチの距離から8時間電球を当てた試験で、表面温度60度の時に裏面は17度。43度の温度差があった。市販のタイルを用いた同様の試験では表と裏の温度差は5度だった。
 長崎市で材木店を営む家庭に育ち、幼少期から建材に興味を持っていた山崎さんは30代でアルミ加工会社を設立。本業の傍ら「これからの建築に必要不可欠な建材を廃棄物で作れないか」と石炭灰に着目した。フライアッシュは微粉炭の燃焼ガスから採取されたパウダー状の石炭灰。提供した九州電力によると、これを混ぜたコンクリートは耐久性や水密性に優れているという。

20年かけて発明した断熱タイル(手前)について語る山崎さん=長崎市琴海村松町

 山崎さんは、タイルに空気を閉じ込めることで軽くなり、さらにその空気も独立発泡にすることで断熱性能を高めることができると考えた。石炭灰を取り寄せてからは電気釜や粉砕機などをそろえ、発泡剤の配合や温度などを変えながら試行錯誤を繰り返した。気泡の大きさや密度をある程度コントロールできるようになるまで約10年かかった。
 次にぶつかった壁は見栄えを良くするための釉薬(ゆうやく)だった。「一般的な焼き物の釉薬を散々試したけど駄目だった」。暗礁に乗り上げ、1、2年のブランクも。だが最終的には「このタイル専用の釉薬を作らなければならないのでは」と発想を変えたのが功を奏した。
 開発したタイルは、断熱性のほか、防水性、防火性、屋外の環境に対する耐候性にも優れている。昨年11月に特許を取得し、同12月の「県発明くふう展」で優秀賞を受賞した。「感無量。支えてくれた女房のおかげ。冬の寒さ、夏の暑さを遮るこの技術を世界中で使ってもらえば」と話す。現在、商品化に向け、建材メーカーとやり取りしている段階だ。
 これまでを振り返り「試行錯誤の末、思い通りにできた時は喜びを感じた」と話す。手間暇と費用もかかり、楽しいことばかりではなかった。それでも、「ここまでやったからには作り上げなきゃという使命感があったのかな。今後も人の役に立つ商品を考えていきたい」と探求心は尽きない。

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