亡くなった不倫相手にもらったものを返せといわれ…発覚すれば遺族とのトラブルも

交際がうまくいっているときは何の問題もなくても、相手が亡くなってしまったとなると話は別。思いもかけないトラブルに見舞われているという話を聞きました。


初対面で声をかけてくれて

一回り年上の既婚者と6年にわたってつきあっていたのはアイコさん(36歳)です。彼は小さな会社の2代目経営者で、彼女は業界のパーティで知り合いました。

「初対面なのに冗談ばかり言ってました。楽しい人だなあというのが第一印象。私は部長の代理で出席したので知り合いもいなかったんですよね。真っ先に名刺交換してくれたのが彼でした。『零細企業をやってます』と笑った顔が爽やかで。若く見えたので、一回り年上だなんて思いませんでした」

その数日後、会社にいる彼女の元に彼から連絡がありました。近くまで来ているのでランチでもどうですか、と。

「せっかくのお誘いだし、私ももう一度話してみたかったので応じたんです。あっという間のランチでした。今度は夕飯でもと言われて頷きました。その時点では恋愛感情はありませんでしたけど、当時、私、ちょうどフラれたばかりで気持ちが沈んでいたんです。彼と一緒にいると楽しくて、落ち込んだ気分が少し上がる。次のディナーのときはそんなことも彼に話しました」

彼は、「そうか、失恋したばかりだったんだ。ごめんね、オレなんかが誘って」と言ったそう。アイコさんは必死に首を横に振ったそうです。

たまに食事にいくやさしい人

それから月に2度くらい食事をする関係に。彼に家庭があることも聞かされていたし、彼は「新しい彼ができるまででいいから、オレとごはん食べてくれる? アイコちゃんといると楽しいんだよ」と言っていました。

「やさしくていい人。話を聞いていると奥さんとも仲がいいし、子どもたちのこともかわいがっている。こういう人と結婚すると幸せなんだろうなと思っていました」

3ヵ月ほどたったとき、食事に行く約束をしていたのですが、アイコさんは急に具合が悪くなり、キャンセルのメールを送りました。会社を早退して病院に寄ってから帰宅すると、彼女の部屋のドアノブにレトルトのおかゆやドリンク、果物などが入った高級スーパーの袋がかけてあります。

「彼でした。中に手紙が入っていて、とにかく栄養をとってゆっくり休んで、と。インフルエンザだったんですが、それから数日、家に籠もっていたのでたくさんの食品は助かりました」

歴代の恋人にそんな優しく粋なことをしてくれる人がいなかったので、アイコさんは彼の顔を思い浮かべて心が柔らかくなっていくのを感じました。と同時に、彼への恋愛感情を自覚したのだそう。

ゆっくりと恋が始まって

そこからゆっくり恋が始まっていきました。最初に彼が彼女の部屋に来たときは、お互いに緊張してぎこちなくなっていたそうです。

「彼は『こんな気持ちになったのは高校生の初恋以来』と言っていました。奥さんとは親戚の紹介で、お見合いのようなものだったと。男子校から理工系の大学へ行ったので、ずっと女性とは縁がなかったと照れていました」

既婚であることを理由に、彼はなかなかアイコさんと深い関係になろうとしませんでした。彼女を苦しめることになると心配していたのです。

「結局は私から誘う感じでしたね」

週に1回か2回、お互いに時間を作って会う日々が続きました。彼はまめに連絡もくれたし、彼女は不安に陥ることはありませんでした。

「愛されている実感がありました。田舎の親も結婚を気にしていたし、私自身も考えることはありましたけど、彼と一緒の時間がいちばん大事だった」

彼女の誕生日にレストランを予約してくれ、サプライズで大きなケーキが出てきたことも。店中の人に配って一緒にお祝いしてもらったそうです。

「明るくて楽しくて。それでいてけっこう勉強家なんです、彼。よく本を読んでいましたね。同じ業界ですから、私もいろいろ教わりました。映画も好きで、ときどき一緒に行きました。好奇心旺盛な人だったんです」

高価なプレゼントはしない人だった。それでも誕生日やクリスマス以外に、ときどき「これ、アイコちゃんに似合うと思って」と春らしいきれいなスカーフや、冬にはしっかりした皮の手袋などをもらったことがあるそうです

「忘れられないのは、つきあって5年たった私の34歳の誕生日。プラチナの繊細な透かし模様が入った指輪をくれたんです。彼がデザインをして、知り合いに頼んで作ってもらった世界でひとつの指輪だそう。感動しました。本当にきれいだったから」

彼女は右手の薬指にはめていました。ところがその1ヵ月後、彼は突然、この世からいなくなってしまったのです。

「会社の帰りに駅のホームで倒れ、それきり意識も戻らずに亡くなったそうです。亡くなって初めて社内でも大騒ぎになって。うちの会社と直接、取引はなかったんですが、彼のことを知っている人は少なくなかった。ただ、彼と私がつきあっていることは誰も知りませんでしたが」

会社からは部長と、他に彼と面識があった人数人が葬儀に行くということだったので、彼女はこっそりお通夜に行きました。でも顔を見たら立っていられなくなってしまうと思い、お焼香をすませるとすぐに立ち去りました。

遺族からの連絡

それから2ヵ月ほどたったあるとき、彼女のもとに彼の兄だと名乗る人物がやってきました。

「彼の携帯から私の存在がバレてしまったようです。奥さんの代理だと言っていました。彼が私にプレゼントしたものやごちそうしたお金を返せ、と。彼がいなくなって会社は経営不振に陥り、家族も大変な目にあっているって。怖かった。だけど返せるほど金目のものはありませんし、外でごちそうにはなったけど、うちで食事をするときは私が食材などを買っていた。そういう話をしようとしたんですが、相手は聞く耳を持ちませんでした」

社内の人にそれとなく彼の会社のことを聞くと、社長の座をめぐって社員と彼の兄が揉めているとか。

「彼がかわいそうになりました。弁護士さんに相談したら、いただいたものを返す義務はないというので、スカーフや指輪は今も大切にとってあります」

彼女にとって、彼は本当に大事な人でした。愛し、愛された記憶もまだ消えません。なにより彼を失ってからアイコさんは3ヵ月で8キロも痩せてしまったそう。

「彼が亡くなって1年ほどは何を見ても泣けて困りました。一緒に行った場所、一緒に聴いた音楽、彼が好きだったイタリアンのお店の前を通っただけで泣けてくる。私、ひとりで生きていけるだろうかと思ったこともあります」

最近、ようやく少しずつ彼のことも思い出せるようになってきたという彼女、そこまで人を愛したことを誇りに思っていいんだよと友人に言われて、やっと前に進もうという気持ちがわいてきたそうです。

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