様式変更で「調査書」の情報量が増加、合否判定で点数化する大学も増える

高大接続改革に伴う見直しにより、今年の入試から調査書の様式が変わります。その結果、調査書に記載される情報量が増加します。これによって、調査書を作成する高校の先生方の負担は重くなることが予想されますが、総合型選抜(旧AO入試)や学校推薦型選抜(旧推薦入試)では、書類審査を行う大学側にも負荷がかかりそうです。また、情報量が豊かになった調査書を、一般選抜の合否判定資料として活用する国公立大学も見られるようになってきました。各大学の調査書に対する取り扱いは、これまでと変わるのでしょうか。また、ポートフォリオとの関係はどうなるのでしょう。

様式変更により、高校が調査書の作成にかける負担が増す

調査書の様式変更は、生徒の特徴や個性、多様な学習や活動の履歴について、より適切に評価を行うことを目的として行われます。これにより調査書の裏面に当たる「指導上参考となる諸事項」の欄が拡充されます。もともとは高大接続改革の議論から様式が改められることになったのですが、文部科学省は、調査書に記載される生徒の学習活動についての情報量を増やせば「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の多面的・総合的な評価に活用できると考えたのでしょう。これまで裏表の両面1枚だった調査書の様式制限を撤廃して、弾力的に記載できるようにしました。弾力的とは、つまり、記載する情報量が多い生徒の場合、調査書が2枚、3枚と増えていくことも有り得ます。評価を行う際には、情報量は少ないよりも多い方が、様々な角度から検討ができます。大学にとっても情報量が増えることで、多面的・総合的な評価のための有用な資料となります。一見すると理に適った施策と言えなくはないでしょう。

しかし、記載する情報量が増えることで、調査書を作成する高校の先生方の仕事量は確実に増えます。また、記載できる活動実績などが豊富な生徒は良いのですが、記入欄が増えた分だけ、特別な活動歴がない生徒は空欄が多くなります。空欄が多いと書類審査をする大学側からは、活動歴が乏しく見えて、当然、評価にも影響することが考えられます。そうなると、できるだけ調査書に記載する情報量を豊かにしてあげたいと考える先生方の仕事量は、ますます増えてしまいます。仮に、調査書作成にあたって、あらかじめ用意された複数パターンの文例集からコピー・アンド・ペーストしたとしても、作業時間は倍近くにになるでしょう。

一般選抜ではあまり活用されてこなかった調査書のあり方が変わる?

これまで以上に労力をかけて作成される調査書ですが、「学習成績の状況(5段階評価の旧評定平均値)」や「出欠の記録」を除くとほぼ定性的な情報です。そのため、大学側の評価者が活動歴や実績などを読み込んで、点数化して合否判定の資料とすることは、かなり難しい作業となります。これが多くの大学の一般選抜で、調査書が合否判定としてあまり活用されてこなかった理由の一つです。一般選抜は試験実施から合否発表までの期間が短いことから、一人ひとりの調査書を丁寧に審査する十分な時間が取れません。これまで一般選抜では、調査書は受験資格の確認か、「学習成績の状況(旧評定平均値)」をデータ化して、入学後のIR調査のデータとして活用するにとどまっているケースがほとんどでした。

しかし、河合塾入試情報サイトKei―Netによると一般選抜で調査書を点数化して合否判定に使用する国公立大学が増えています(2021年度 国公立大学入試変更点

https://www.keinet.ne.jp/exam/2021/change/k_index.html

)。点数化の具体的な方法を公表している大学は、現段階では多くはありませんが、筑波大学は活動の内容の優劣を評価するのではなく、活動の有無のみを点数化すると公表しています。活動内容の有無のみを評価の対象としたこの方式は、2022年度入試から予定されている調査書の電子化により、評価作業の効率化が可能となるため、よく考えられた方法と言えます。

ただ、他の大学では、「志望理由書と合わせて総合的に判断して点数化する」などの表記が見られるため、調査書点数化の配点が全体に占める割合は小さいとは言え、評価方法の曖昧さが気になります。「学習成績の状況(旧評定平均値)」の5段階評価の値をそのまま点数化して加算する方法を取るのではないかと推測もできますが、それでは情報量が豊かになった調査書の活用法としては、いささかシンプル過ぎるのではないでしょうか(大学の実務担当者からはお叱りを受けるかも知れませんが)。

一方、私立大学では「入学後の教育上の資料として活用する」としている大学が多いものの、加点して合否判定に活用するケースは、ほとんどありません。なお、これに関連して、出願時に「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」に関する活動や経験の入力を求める私立大が、難関大学を中心に散見されますが、私立大学の一般選抜の平均倍率は4倍です。つまり、出願時にせっかく入力しても、そのうち合格した25%のデータが活用されるだけで、不合格者分の75%のデータは活用されません。さらに言えば、合格した25%のうち、入学者のデータのみが活用されますので、25%に入学手続率の平均値30%をかけると実際に教育上の資料となるのは志願者全体の7.5%・・・です。

ところで、変更される調査書の様式はどのように変わるのでしょうか。

[link pagenumbers="2"]記入欄が学年毎に拡充される裏面の「指導上参考となる諸事項」は…[/link]

記入欄が学年毎に拡充される裏面の「指導上参考となる諸事項」は6項目

さて、今回の様式変更で拡充される調査書裏面の「指導上参考となる諸事項」は、次の(1)から(6)の6項目に分類されています。

(1)学習における特徴等

(2)行動の特徴、特技等

(3)部活動、ボランティア活動、留学・海外経験等(具体的な取組内容、期間等)

(4)取得資格、検定等(専門高校の校長会や民間事業者等が実施する資格・検定の内容、取得スコア・取得時期等)

(5)表彰・顕彰等の記録(各種大会やコンクール等の内容や時期、科学オリンピック等における成績、時期、国際バカロレアなど国際通用性のある大学入学資格試験における成績・時期等)

(6)その他(生徒が自ら関わってきた諸活動など)

従来は上記の複数項目をまとめて記入する様式でしたが、変更後は各項目別に学年別に記入されるようになります<図>。これに加えて、従来同様「総合的な学習の時間の内容・評価」、「特別活動の記録(ホームルーム活動、生徒会活動、学校行事)」の記入欄もあるため、これまでと比べて格段に情報量が増加します。さらに「備考」欄には、大学が指定する特定の分野(保健体育、芸術、家庭、情報等)の特に優れた学習成果を上げたことを記載するよう、大学が募集要項で求めた場合には、高校はこれにも対応する必要があります。

ここまで情報量が多いと、作成する高校の先生方の負担の重さが心配になるのと同時に、書類審査を行う大学側が全ての情報を受け止めきれるのかも心配になります。大学によって違いはありますが、総合型選抜や学校推薦型選抜でも、志望理由書や自己アピール文は評価者がかなり読み込みますが、調査書は面接時の参考資料として活用されるケースがほとんどです。中には取得資格などを得点化して合否判定時に加算するケースもありますが、審査書類としてはあまり活用されていないというのが一般的です。今回の様式変更は、大学の書類審査方法の見直しの良い機会となる知れません。なお、大学の担当者は、審査方法の見直しをしない場合でも調査書の様式が変わることから、少なくとも書類審査担当者用のマニュアルと面接担当者用のマニュアルは見直しておく必要があるでしょう。

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[(https://univ-journal.jp/column/202031704/200420column01/)

現行の調査書[/caption]

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[(https://univ-journal.jp/column/202031704/200420column02/)

改正案[/caption]

ポートフォリオの効果で総合型選抜の自己アピール文のレベルが上がる?

調査書に関連したツールとして、ポートフォリオがあげられますが、今年の受験生の多くは、高1生の時からポートフォリオに活動実績等を記録しています。当初の入試改革の方針では、一般選抜でもeポートフォリオが活用されると言われていたためです。ところが実際はほとんどの大学がeポートフォリオを一般選抜では活用しないため、高校や大学から急速にポートフォリオへの関心が失われました。しかし、高校によっては、入試への活用にこだわらず、教育活動の一環としてポートフォリオによる丁寧な指導を続けています。

こうした高校では、学校行事が終わった後には、生徒に必ず振り返りをさせて自分なりの総括をさせています。真面目にポートフォリオに取り組んだ生徒は、考察や反省を通じて、学んだことや身につけた力や経験などについて、自覚を伴って内面化していることでしょう。このような生徒が提出する、、総合型選抜の出願書類の自己アピール文や活動実績報告書、志望理由書は、これまでよりも内容がよく整理され、レベルが上がることが考えられます。多くの出願者の提出書類のレベルが上がることは、審査する大学側から見ると、1次審査にあたる書類審査では差を付け難くなります。1次合格者を予定よりも増やして、面接等で対応するのか、情報量が豊かになった調査書を活用するのか、大学側にとってここは思案の為所です。

なお、今年の受験生は、高2生の学年末から高3生の前半にかけ、学校での活動に空白期間があるため、自己アピール文や志望理由書でアピールする内容にも一定の制約が出てきそうです。全ての高校がSSHやSGHではないため、出願者がアピールする内容が似通い、例えば文化祭や体育祭など特定の学校行事を対象としたものが多くなるかも知れません。大学側は、こうした今年特有の状況も受け止める準備が必要となりそうです。

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