「売る場所ない」在庫抱え業者 長崎スイーツ苦境 土産物店休業で売り上げ減

返品された商品を整理する吉永代表=長崎市

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、長崎県でも観光施設の閉鎖や土産物店の休業が相次ぎ、その余波は焼き菓子などの製造、卸、販売業者らにも及んでいる。売り上げ減に加え、行き場を失った在庫を抱え、事業者からは悲痛な声も。県内土産の定番、“長崎スイーツ”が苦境に立たされている。

 「賞味期限が来れば捨てるしかない。もう3カ月、繰り返している」。「LUSK nagasakiラスク専門店」(長崎市元船町)の吉永民恵代表(53)はため息をつく。
 開業7年目。店頭のほかグラバー園などで、ケーキやカステラをアレンジしたラスクを販売、県内外でリピーターもついた。だが、2月以降は観光客が減り、賞味期限が迫った商品の返品が増加。主力の「長崎とろけるケーキラスク」(1箱4枚入りと8枚入り)に至っては、計150箱は処分を余儀なくされた。
 膨らむ在庫を減らそうと、長崎商工会議所が3月に開設した在庫マッチングサイトを活用、何とか10万円分を売ることができた。それでも、3月の売り上げは通常の半分。店の家賃や光熱費などで月に20万円の固定費が必要で、損失の穴埋めには厳しい状況が続く。
 政府はコロナの影響を受けた個人事業主に100万円を支給する「持続化給付金」を打ち出している。しかし、吉永代表の店は昨年3月、あびきで浸水し大損害を受けた。今回の減収幅は「前年同月比50%減」に当てはまらず、受給できる可能性は低いと見ている。「政府は数字でしか見てくれない。経営者じゃないから分からないのでは」
 頭を悩ませているのは同店だけではない。長崎市内でカステラを製造、販売する別の菓子店は、県外にも販路を拡大した直後、各施設の休業に見舞われた。3月の営業日が約半分だったハウステンボスでの売り上げは、前年同期比6分の1にまで落ち込んだ。
 4月は例年、毎日稼働しているが、今年は在庫調整のため4月の製造日はわずか8日。従業員に自宅待機をしてもらう苦渋の決断をした。「商品を売る場がどんどんなくなっていく。いつまで給与を払っていけるのか。助成金が出ても売り上げがないと追いつかない」と表情を曇らせる。
 県物産ブランド推進課は「菓子類に限らず県産品全般が厳しい状況に置かれている。購買意欲が高まるような取り組みを進めなければいけない」として、対策を検討している段階だ。
 今月、吉永代表の店に、ラスク300枚分の注文があった。「甘い物を食べると笑顔になる。闘っている人をスイーツで癒やしたい」と、神奈川県内で看護師をしている知人が店の窮状を知って手を差し伸べてくれた。「彼女はもっと大変な状況なのに…。みんなが闘っているからつぶれるわけにはいかない」。吉永代表は言葉に力を込め、前を向く。

 


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