制度融資の窓口混雑、申請まで2カ月待ちの自治体も

 「新型コロナウイルス」感染拡大で外出自粛の要請が続くなか、東京都内では各自治体が事業者向け制度融資の対応に追われている。制度融資は、中小企業が事業資金を低利で受けられるように、自治体が金融機関に対して融資をあっせんする。融資の上限金額、支援認定の要件などは自治体で異なるが、支援を求める経営者は多い。
 各自治体の窓口には、多くの経営者が申請に訪れている。自治体の担当者は、相談件数が「リーマン・ショックの比ではない」と語る。支援認定までに、申請から2カ月以上もかかる区もある。
 終息のめどが見えない新型コロナの猛威に、経営者だけでなく自治体の担当者も疲労困憊(こんぱい)を隠せない。

大田区、保証枠拡大で相談件数が急増

 内随一の町工場が集積する大田区は、3月9日から対策特別資金制度を開始した。当初は連日、50~70件ほどの相談が窓口に寄せられるが、4月14日までは当日の来庁者に即日対応していた。しかし、15日から保証枠を都内最高水準の上限5,000万円まで拡充すると、来庁者が急増。当日受付は、開庁から約1時間で埋まり、翌日相談分の整理券も午前10時すぎには配布が終了する状況だ。
 大田区の担当者は、「金融機関から15日に上限拡充をアナウンスしていただいたようで、想定を上回る事業者が関心を持たれたようだ」と話す。一方、「ここまで相談が多いのは、一刻を争う事業者が多いということ。この状況がいつまで続くのか」と不安を隠さない。大田区の申請期限は6月1日まで。だが、「反応があまりに大きく、申し込み期間の延長も視野に入れている」という。
 16日は午前9時30分に、翌日分の整理券の配布が終了した。同日午後、区内で舞台衣装の製造販売会社を営む30代の女性経営者が必要書類を揃えて来庁した。イベントやコンサートが中止になり、予定していた注文も軒並みストップしたという。
 「当座の資金は何とかなっても、先がどうなるか分からない」と不安そうな表情で語った。
 自社製造する衣装は中国からの輸入材料を多く使用しており、「二重で影響を受けた」とため息をつく。ただ、今回のコロナショックをきっかけに、仕入先の見直しを決断した。「今回、前々から心配していた材料の海外調達リスクが発生してしまった。今後は多少コストがかさんでも仕入先を国内にするなど、もっと分散する」と語った。
 コロナ禍をきっかけに、経営を根本から見直す逞しい経営者もいる。

新宿区、売上減少の“見込み”で認定

 新宿区は17日現在、申請まで2カ月待ちの状況だ。飲食店やサービス業が多く、「申請時点で売上が下がっていなくても、今後下がる見込みがわかれば認定対象とする」(担当者)と間口を広げて対応している。
 確認作業に約1時間を要し、1日あたり60枠に限られる。17日現在の待ち人数は約1,000人。4月第1週まで予約から申請まで1カ月弱だったが、7日に政府が緊急事態宣言を出すことを表明すると相談数が急増した。電話問い合わせも1日300件にのぼる。信用保証協会のセーフティネット認定は、辛うじて当日面談が可能という。だが、申込は1日100件を超え、金融機関への協力要請も検討しており、「今週中には、何らかのアナウンスをする予定」と新宿区の担当者は話す。

足立区、信金の代理申請で待ち時間削減

 建設業や卸売業が多い足立区は、3月9日から区の緊急融資をスタートした。
 3月末までに窓口の相談件数は955件にのぼった。4月はペースがさらに加速し、1日から17日までで1,000件を超えた。2018年度の相談は2,000件弱だった。「たった1カ月半で去年1年分の相談件数が寄せられた」と担当者は驚きを隠さない。
 3つの窓口で対応し、当初は4時間待ちの日もあった。そこで区の独自策で、区内に店舗を構える9信金と連携。信金の各支店に、融資を必要とする企業の資料を準備してもらい、窓口で“代理申請”の形で申請をまとめて受け付ける。「書類が揃えば、即日支援を決定している。これで待ち時間の大幅な削減につなげた。今はほとんど待たずご相談に応じられる状態」(同)。
 開始当初は、インバウンド関連の申請が多かった。「まず、観光バスが早かった。次いで、武漢から資材が入らない製造業、リフォーム業者が目立った」(同)。4月以降は、飲食業者や個人タクシーなどの申請が急増している。限度額1,000万円、1年目は3%まで利子を全額補助する。他の自治体に比べ、比較的長い9月末まで申請を受け付けるが、「先のことは全く見通せない」(同)という。

 連日、各自治体の窓口には多くの事業者が訪れるが、課題も浮かび上がる。
 着の身着のまま来庁する事業者が、どの自治体にも相当数いる。「とりあえず(役所に)行ったらなんとかなるだろうといらっしゃる」(区担当者)という声も。ただ、必要書類が揃わず、再度の来庁・予約が必要になる。その場合、「結局は申請から認定まで2カ月以上を要する」(同)。それでも、「1回の来庁で認定できるよう早急に策を講じたい」と話す自治体も多い。
 窓口の混雑は、融資を必要とする事業者に正確な情報が行き渡っていない事が大きい。区独自の制度融資と国の持続化給付金を混同する事業者も少なくない。「区独自の500万円までの支援枠に対し、200万円しか融資を受けられないと思い込んでいる人が何人もいた」(担当者)という。また、「近いうちに役所や金融機関が休業すると勘違い」(同)して慌てて来庁するケースもあるという。
 政府は、持続化給付金の支給にガイドラインを示している。ただ、前年同月比で売上半減など、給付対象のラインが厳しいことに加え、給付開始の時期も不透明で、翌週の資金繰りに頭を抱える事業者もいる。
 一方、自治体独自の制度融資は適用される対象が広く、急場の資金需要に果たす役割は大きい。中小企業の支援をより迅速に実現するには、自治体は金融機関だけでなく、国や都道府県とも連携し、徹底した事業者への支援周知が急がれる。

制度融資の窓口混雑画像

‌必要書類を持参する事業者(16日大田区)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年4月22日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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