新型コロナ感染拡大で死が身近に…「エンディングノート」の必要性

昨今の新型コロナウィルス感染拡大の報道により、人の死が他人ごとではないと感じている方も多いのではないのでしょうか。

体の不調を感じてから数週間で帰らぬ人になってしまう――。そんな現実を知っても、ご自身の「終活」についてまだ早いと思われますか?

この機会にご自身の今までを振り返ってみてはいかがでしょうか。終活の一つとして、今回は「エンディングノート」のお話をします。


エンディングノートに書くべき「3つのこと」

エンディングノートは、ご自身に万一のことがあった場合に備えて、ご家族や知人、友人などに知っておいてほしいことや伝えたい内容を書き残すために使われるノートです。今までの人生を振り返り、書くことにより気持ちの整理をし、これからの人生をよりよく生きるために活用することもできます。

書店や文房具店で販売されていたり、各自治体のホームページ等からダウンロードできるものもあります。葬儀社によっては、資料請求をするとプレゼントしているところもあるようです。

エンディングノートを書くのに年齢はまったく関係ありません。人は生まれたその時から人生の終わりに向かって過ごしていくのです。まだ若いからと思っても、今日、明日何があるかもわかりません。今回のようにウィルスの感染拡大や自然災害が起こったり、病気にかかる可能性は常に考えられるからです。ですから、“思い立ったときに始める”ことが大切です。

エンディングノートには、決まった形式はありません。多くは、ご自身のこと、ご家族のこと、友人知人のこと、お身体のこと、葬儀やお墓のこと、財産のこと、大切な方へのメッセージなどが書けるようになっています。何から書き始めてもかまいません。また、全部書かなくてもかまいません。いつでも書き直しができます。

そうはいっても、ご家族やお世話をされる方の迷いが少なくなるという意味で書いておいてほしいことがあります。以下の3つについてです。

1.介護が必要になったときのこと
2.生死にかかわる事故や病気になったときのこと
3.自分の葬儀に関すること

万が一のことがあってからでは遅い?意思がはっきりしているうちに準備を

それぞれを少し詳しくみていきましょう。

1.介護が必要になったとき
認知症や寝たきりになったときの介護について、介護をしてもらいたい人、介護をしてもらいたい場所(自宅、病院、施設など)、費用等についてどうしたいのかについて記しましょう。また財産管理の面で、誰かに面倒を見てもらうための契約(財産委任契約、後見契約など)をしているのであれば、それも書き残しておきます。

2.生死にかかわる事故や病気になったときのこと
病名や余命の告知をしてほしいのか、してほしくないのか。治る見込みのない病気にかかったときの延命治療についてどうしたいのか。臓器提供に関して、どのように考えているのか。最期を迎える場所(自宅、病院、施設等)の希望はあるのかなど、突然やってくる万が一の場合に備えて自分の希望をしたためましょう。

3.自分の葬儀に関すること
葬儀社を決めて、すでに契約をしているのか、していないのか。葬儀の規模や内容をどうするのか。喪主は誰に頼みたいのか。遺影写真を準備しているのか。友人、知人のなかで連絡をしてほしい人、してほしくない人。さらに、連絡をしてほしい時期(危篤時、死亡時、通夜・葬儀、喪中はがきのみなど)について。ご家族は、ご本人が懇意にしている方々を知らない場合が多く、お別れをしたかったのに連絡が行き届かなかったということもあるようです。

この3つは、ご自身の意思がはっきりしていて、しっかり考えることができる時期に書いていただきたいことです。

上記の他にも、ご家族が把握していないことのひとつに財産にかかわることがあります。エンディングノートには財産状況を記入するページもありますが、法的な効力はありません。財産を引き継いでほしいという対象者がいる場合は、「遺言書」の作成をお勧めします。

法的な効力を持たせることができる「2種類の遺言書」

遺言書を作成することによって、「誰に」「何を」遺したいのかを指定しておくことができます。では、遺言書はどのように作成したらいいのでしょうか。遺言書にはいくつかの種類がありますが、ここでは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つについてお話をしていきます。

【自筆証書遺言】
自筆証書遺言とは、文字通り、ご自身で遺言の内容を全文手書きで作成する遺言書です。2019年1月13日施行の法律改正により、財産目録については自書する必要はなくなりました。

メリットは、遺言書を書く際の費用がほとんどかからないこと。誰にも内容を知られることはないですし、気軽に何度でも書き直すことができるといった点も挙げられます。

デメリットとしては、法的効力を持たせるためには書き方の要件があること。したがって、内容や記入方法、訂正の仕方に不備があると無効になる場合があります。また遺言書を使用するには、裁判所の「検認」という手続きが必要になります。偽造や変造される恐れもあり、発見されない、紛失するといった可能性もあります。

【公正証書遺言】
公正証書遺言とは、公証役場で公証人が依頼者からの依頼により作成する遺言書です。

メリットとしては、専門家が作成するので、ほぼ確実に有効な遺言書となること。公証役場で保管されるため紛失の心配はありません。公正証書遺言があれば、相続が発生したらすぐに財産を分ける手続きができます。

デメリットは、作成や書き直しに費用がかかること。証人が2名必要なので、その2人には遺言の内容を知られることになります。

公正証書遺言をお勧めする理由

自筆証書遺言も公正証書遺言も、要件を満たしていれば、法律上、同じように使用することができます。どちらの種類の遺言書を作成するかは、時と場合によって変わってくるかもしれませんが、公正証書遺言をお勧めします。

なぜなら、公正証書遺言は作成の手間や費用がかかりますが、いざというときに簡単に使うことができるからです。自筆証書遺言は、費用がほぼかからずに簡単に作成できますが、いざ使うときに遺された人に大変な手間をかけることになります。

また、遺言書の有効、無効と、遺言書の内容によって相続人の間で争いになる、ならないは別問題となりますので、遺言書を作成する際には、相続人同士で争うことにならないように専門家に相談されることをお勧めします。

まずは、エンディングノートから始めてみる

このように、財産の承継を考える場合には遺言書が有効になります。つまり、「エンディングノート」と「遺言書」では、その効力やできることが違うのです。

自分の気持ちを整理しておきたい方、万が一に備えて伝えておきたいことがある方はエンディングノートを、財産の承継を考えている方は遺言書を活用していただくということになります。

しかし、なかなか気持ちの整理ができないという方も多くいらっしゃるかと思います。そんな時には、やはりエンディングノートを活用してみることをお勧めします。

介護を誰に、病気のときは、葬儀については……などをしっかりと考えることで、家族へ伝えなければいけないことがより明確になります。そして、この希望を叶えるには、財産の承継も検討しなければいけないということになれば、遺言書の作成も視野に入れていくことになると思います。

ご自身の想いや願いを伝え、家族の不安を減らす。そして人生を振り返り、未来を見つめるきっかけになります。

ぜひ、この機会にエンディングノートを書いてみてはいかがでしょうか?

<行政書士・相続診断士・終活カウンセラー:藤井利江子>

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