「乗下船ない」一転 三菱、裏付けなく発表 長崎で客船クラスター

陽性患者を搬送しているとみられる救急車。救急隊員はゴーグルや手袋などの防護措置をとっていた=22日午後2時34分、長崎市香焼町

 懸念は現実に変わった。22日、三菱重工業長崎造船所香焼工場(長崎市香焼町)に停泊中のクルーズ船内で新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)の発生が判明。三菱が当初「ない」と強調していた乗組員らの乗下船も「あった」に一転し、市中感染に対する市民の不安は強まった。一方、現地入りした厚生労働省の専門家らは、感染拡大防止に向け急ピッチで対策を練っている。
 三菱重工業長崎造船所香焼工場に停泊中のクルーズ船コスタ・アトランチカ内で新型コロナウイルス感染が発覚した当初、三菱重工は直近の乗組員らの乗下船を「ない」と説明していた。だが実際は交代などで出入りがあり、裏付けのない公表だった。22日の会見ではその釈明に追われた。
 「私はゼロと言ったが、残念ながら違っていた。非常に申し訳ない」。同造船所長を兼務する椎葉邦男三菱造船常務はマイクを握りこう陳謝した。その2日前、最初の記者会見では「3月14日以降の乗下船はない」という運行会社コスタ・クロティエーレ(イタリア)から得た回答をそのまま報告していた。
 同船が修繕のため香焼工場に着いた1月末以降、乗組員らは貸し切りバスで街へ買い物に出掛けていた。県が3月13日、感染拡大防止のため乗下船自粛を要請したが、これで途絶えた訳ではなかった。
 三菱重工は同16日から工場正門で入構者全員に健康チェック表の提出や検温を義務化。2週間以内に中国やイタリアなどに渡航経験、4日以内に37.5度以上の発熱などがあった場合、入構を断ることにした。
 ただ乗組員らに対しては、コスタ社が同じ“検問”を正門ではなく、乗下船口で行う役割分担にした。船に横付けして乗降する貸し切りバスは正門がフリーパスとなり、タクシーなどは三菱重工が正門でチェックした。出入国を伴う移動はグループ単位でバスを利用。体調不良で通院するなど緊急時は日本の代理店を通じてタクシーを手配していたという。
 ところが三菱重工は20日の初回会見前にコスタ社に乗下船歴を照会し「ない」と言われたのをうのみにして、出入構データと突き合わせていなかった。椎葉氏は2度目の会見で「船員が街中をうろついていないので大丈夫と思ったが、適切な表現でなかった」と説明。工場内でほかのコスタ客船2隻との往来については「船を管理する立場の人の横移動はあった」とした。
 いずれも二次感染の有無を追跡する上で必要な情報であり、椎葉氏は「最大のスピードで実態を調べて公表する」と約束した。コスタ社日本支社も社員を現地に派遣し、三菱重工と事実関係を確認するという。


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