コロナ後では遅い、転職活動の真実 「就社」の時代ついに終止符

コロナ危機の今、転職市場では何が起きているのか(写真はイメージ=PIXTA)

 新型コロナウイルスの感染拡大で突然訪れた経済危機。昨年まで売り手市場だった転職市場にも逆風が吹いている。だが、そんな今だからこそむしろ転職活動を始めるべきだと、転職エージェントで『年収が上がる転職 下がる転職』の著書がある山田実希憲氏は説く。いったいどういうことなのか。5000人以上のビジネスパーソンと面談してきた転職のプロが、コロナで一変する働き方の未来について解説する。

■「求人数が多い=チャンス」は本当か

 「転職に適した時期はありますか?」。私が過去に実施してきた転職相談の中で多い質問の一つである。特に新型コロナウイルスによって経済活動が停滞する今、転職を再考する人が増えるのは当然のことだろう。

 実際、求人数は減っている。3月31日発表の厚生労働省発表データによると、 2月の新規求人数は前年同月と比較して13.5%減少。原因の全てが新型コロナによるものとは言えないが、リーマンショック後の不況下に求人が激減したことを振りかえると、今後さらに減少していくことも予想される。

 企業が採用をしていなければ応募できる企業が減るため、転職に適した時期とは言えない。しかし、求人数が多ければチャンスというほど単純な話でもない。

 企業が雇用を守ってくれることにも限界がある中で、やはり本質的に捉えるべきは、求人数によって転職を検討するのではなく、働き方を自らが柔軟に計画し、変化に対応していくことにある。

 はからずも新型コロナの影響が働き方を見つめ直すきっかけとなっているケースは多い。将来が見通しづらい中で、どう生きていくのか、どう働いていくのかという問いに直面してきたことで、いよいよ転職相談は人生相談の場となってきた感がある。

 本記事ではアフターコロナにおける働き方や転職市場を見越して、個人が備えるべきキャリア計画について触れていきたい。

■転職市場で今何が起きているのか

 先ほど述べたように求人数は減っているものの、全ての求人がストップしてしまうほどには至っていない。企業も人材不足が解消されたわけではなく、課題解決のために採用活動を止めるわけにはいかない状況が続く。

 選考の現場では、対面での面接がオンラインへ切り替わったり、日程を延期するなどの対応に追われたりしている状況にある。そもそも候補者と会えないため、選考が進まないケースも目立ってきた。

 さらに経済活動が停滞して先が不透明な情勢が続く場合、未来への投資である採用には慎重な姿勢をとる企業が増えると予想される。

 例えば旅行やホテル、ブライダルなど、利用者が著しく減ってしまった業界では、新規採用を控える動きも出ている。しかし同じく苦境に立たされている飲食業の中でも、デリバリ―形態をメインとする企業では、新たな採用を積極的に行っているケースもあるようだ。

 ITやWEB系企業の中には、営業をはじめとして多様な職種で募集が出ている企業もある。自宅で業務管理を行えるサービスやオンライン会議ツールといった、人との接触を避けるために必要となるサービスの需要が増えているからだ。

 転職する人材側の視点でこだわるべきは、求人の採用背景になる。なぜ採用しようとしているかという企業の事情である。

 競合他社が採用を控える今だから採用したいという理由もあれば、不況下でも業績が好調で事業拡大のために採用を強化しているケースもあるのだ。

■転職市場の二つの変化

増えているオンライン面接。質問内容に工夫が求められる(写真はイメージ=PIXTA)

 対面で会えず、先行きが不透明な状況で、転職市場に二つの変化が起きている。一つは、限られた情報の中であっても採用可否や入社有無を判断しようと、採用する側とされる側の双方が必要な情報をダイレクトに取っていくスタンスの変化だ。もう一つは、企業が業務フロー自体の見直しを始めたということである。

変化➀ 空気を読む質問はもういらない

 採用手法の変化は、面接のオンライン化などですでに始まっている。グーグルのハングアウトミート、ZOOM(ズーム)といったビデオ会議ツールは、慣れてさえしまえば問題なく使っていけるが、通信環境や背景への配慮など、双方にリテラシーとマナーが求められる点だけ留意いただきたい。

 また対面に比べてオンラインのコミュニケーションには、微妙なタイムラグや、話しやすい雰囲気の醸成がしづらい面がある。

 その中で求められるのは面談目的の理解と、意思決定のための情報を正しく得るための質問である。空気を読んだ質問ではなく、クリティカルな質問とも言い換えられる。

 意思決定のための本質的な情報のやり取りを行うとなれば、採用する側とされる側双方に健全な緊張感が生まれる。

 遠隔でやり取りが可能なオンラインコミュニケーションは、今まで会えなかった人(会社)と出会える可能性も高まる。採用手法の変化が、ミスマッチを減らした最適なマッチング手法となっていくことも考えられる。

変化➁ 自社社員の需要が減る?

 新型コロナによって今までの業務フローを強制的に見直すケースも出てきている。社内の課題を解決するものは、人の手によることもあれば、仕組みによるケースもある。

 例えば自社社員があたっていた業務を、営業代行を使うなど外部発注で低コスト化するほか、外部のフリーランスや副業エンジニアに依頼するなど、採用にこだわらないケースも増えてきた。

 フリーランスと業務をマッチングするサイトも増え、有事の際に雇用をし続けるリスクを軽減する目的もあるようだ。

 これらの流れを見ていくと、「メンバーシップ型」から「ジョブ型」採用への移行も現実的に増えていくのではないだろうか。

 採用の目的が課題解決だとすれば、課題やミッションが明確であること、そしてその課題解決が可能であるかどうか、再現性があるかどうか、選考時の人に対する質問はより具体的なものとなる。

 今までも採用基準が不明確だったわけではないが、任せる職務内容が曖昧な採用は実は多い。就職というよりは就社をイメージした「メンバーシップ採用」と呼ばれる手法である。

 日本では比較的オーソドックスな方法で、新卒一括採用などはまさにこの手法となる。ポテンシャルへの期待値によって採用し、育成していくことになる。

 しかし不況下では育成を待つのは難しいため、任せるミッションが明確化された「ジョブ型」の採用が求められる。

 欧米諸国で一般的な採用方式で、ジョブディスクリプション(職務記述書)によって職務内容、勤務地、雇用条件や責任の範囲が明確である一方、企業が雇用を保障しているわけではなく、あくまで即戦力の採用となる。

 また、職務内容によって給与が決まるので、4月から実施されている「同一労働同一賃金」にもつながる採用手法と呼ばれている。

■アフターコロナのキャリア計画

アフターコロナの社会で求められる働き方とは(写真はイメージ=PAKUTASO)

 企業が人材に求めることが明確になっていく転職市場を見越して、何に備えるべきか。それは、あなたが提供できる価値を明確にしておくことである。

 そのために転職をするかどうかの判断は別にして、転職活動は今すぐにでも始めるべきだ。ここでいう転職活動とは、やみくもに求人に応募するということではなく、働き方をしっかり生き方に重ねていくための活動を指す。

 今までは会社がキャリア設計をしてきた側面が強かったが、終身雇用や年功序列といった制度が崩壊した今、キャリアを設計するのは自分である。

 働き方改革の掛け声がかかっても、残業時間や休み方など、各論で話が終わってしまっていた。その文脈の中で新型コロナは改革のスピードを非常に早めた感がある。

 企業は先行きの不透明感から、採用失敗のリスクを減らして、変化に強い組織をつくるように変わっている一方、働く側も変化に強い働き方の設計をしていくという考え方が必要となる。

 具体的には現状への不満があればその大本の理由を把握するところから始めていただきたい。その上で、自分の強みや得意で勝負するために、まず自分の強み、得意、他の人と違っているところを個性として捉える。

 どういう環境下だとその個性が生きるのか、それこそあなたが知るべき自分であり、備えである。

 自分の仕事を箇条書きにするのではなく、喜んでくれたお客様や社内外の人たちの顔を思い浮かべながら、貢献してきた実績を振り返り、再現性のある自分のスキルとして捉えることを勧めたい。今までやってきた仕事、習慣こそがキャリアである。

 今ある環境を客観的に捉え、持続してやっていける仕事なのか、そうでなければどんな備えをしておくべきなのか。そして今後、自分がどう働きたいのか、という問いかけをするには良い機会である。

 生き方に働き方を重ねるという視点でキャリアを能動的に選択していくためには、客観的な視点で自分の強みを把握して、採用企業でパフォーマンスを発揮できる状態にしておく必要がある。

 読むべきなのは空気ではなく、成果や具体的な貢献である。パフォーマンスを発揮することこそが求められている転職において、お互いに何が欲しいのか、という本質的なやり取りをしていただきたい。大きな変化が求められている今だからこそ、一歩目を踏み出すチャンスでもある。

 このことについては、拙著の中でも詳しく紹介しているので参考にしていただければ幸いである。こういった流動的な時代だからこそ、すべての働く人々が自分らしい働き方を実現することを望んでやまない。(ジェミニキャリア取締役/転職エージェント=山田実希憲)

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