コロナ死亡率低いドイツ、自営業者が体験した支援金と外出制限のリアル

新型コロナウイルス感染の拡大を受けて、ドイツで外出制限が出されてからおよそ1ヵ月。ドイツは他の欧州諸国に比べて、新型コロナによる死亡率を低く抑えることに成功しています。メルケル首相は4月15日に記者会見を行い、外出制限に関する今後の見通しを発表しました。

具体的には、現在の外出制限は5月3日まで延長されること、学校の授業は5月4日以降、卒業学年から順に再開されること、大規模のイベントは8月31日まで禁止されることなどが伝えられました。

4月20日からは中小規模の小売店舗の営業が一部で再開されており、ドイツは外出制限の緩和に乗り出しています。


外出制限の緩和をめぐる意見の衝突

しかし、こうした外出制限の緩和に関しては、国の中で意思決定の足並みがそろっていないのが現実です。独メディアのメルクアーは、この記者会見に先立って行われたメルケル首相と州首相らとの会談において、特に休業中の店舗の営業再開日をめぐって意見の衝突があったと報じました。

報道によると、経済相大臣のペーター・シュタインマイヤー氏が5月15日の営業再開を提案する一方で、ノルトライン・ヴェストファーレン州首相、アルミン・ラシェット氏は「(5月15日では)店舗がなくなっているだろう」と一刻も早い営業再開を求めました。

ラシェット州首相の提案に対しては、次期連邦首相選を見据えたパフォーマンスではないかとの見方があるものの、こうした彼の主張は市民の間では一定の支持を集めています。西ドイツ放送局ケルンが同州で行なった世論調査では、回答者のうち65%が「ラシェット氏の政策・姿勢に満足している」と答えました。

コロナ禍がもたらすフリーランスへの影響

こうした世論調査の結果は、コロナ禍による経済的な打撃を不安に思う声を反映したものと考えられます。特にフリーランスや経営者にとっては、外出制限による経済活動の停止は死活問題だからです。

ベルリンで旻基(MINGI)建築設計事務所を営むミンギさんの場合、仕事にコロナウイルスによる影響が生じています。

「建築家の仕事には、建築物の高さや色の制限などに関する土地の情報を調べることも含まれます。こうした情報は役所が管理しているのですが、役所の民間対応の窓口が閉まっているので仕事が進みません」(ミンギさん)

彼は日本や韓国にも活動の場を広げていますが、移動制限のために現地に行けず、まとまりかけていた案件がキャンセルになったといいます。

「実際に設計をする前に土地の状態を見たり、クライアントと顔合わせをしたりしますが、この段階では正式な契約書は交わしません。日韓の案件はまさにこの段階で、まだ契約を結んでいませんでした。この話はなくなりそうですね……」(ミンギさん)

連邦政府の即時支援金は、申請から数日で8,000ユーロ(約96万円)が支払われたそうですが、税務局の審査次第では返金を求められる可能性もあります。口座にお金がある安心感はありますが、運用ルールに不明点もあるのでむやみに使うわけにはいきません。

ひっ迫する小売店の経営

ベルリンで着物の販売店Aura(オーラ)を2店舗経営するアムンドラ・ガンテメーアーさんも、コロナ禍により売り上げに深刻な影響が出ていると言います。

「『アジアで新種のウイルスが流行っている』という情報が流れてきた頃から、客足が遠のくのを実感しました。着物=アジア=コロナウイルスという連想があったのかもしれません。イースター時期の売り上げに期待していたのに、コロナウイルスで全ての計画が無に帰しました」(ガンテメーアーさん)

オーラの店内

前述の記者会見においては、800m2以下の敷地面積の店舗は4月20日から営業を再開できるとの判断が発表されました。しかし、ガンテメーアーさんにとっては、あまり意味がありません。

買い物客の8割を観光者が占めるオーラは、営業を再開できても街に観光客が戻って来なければ売り上げは戻りません。ガンテメーアーさんは、1ヵ月以内に1店舗を手放すかどうかの決断を下す必要に迫られています。また、営業再開に際して店は消毒液とマスクを来店客に用意しなければならず、店側の負担は見過ごせません。

「(支援金についても)プレゼントされるお金ではないので、使途を記録しなければいけません。申請はしましたが、支援金が給付されても問題が先送りされるだけだと感じています」(ガンテメーアーさん)

コロナ禍ではできることをできる分だけこなす

こうした厳しい状況の中でも、それぞれに奮闘しています。ガンテメーアーさんの対策はオンラインショップです。「着物に馴染みのないお客さんにオンラインで販売するのは難しいですが、これまでも苦境を乗り越えてきた人はたくさんいます。今回もきっと大丈夫」と前を向きます。そして、「自分より大変な人がいることを考えれば、こういうときにこそ『連帯』の気持ちで助け合わなければ」と言い切りました。

ミンギさんも「設計のコンペが中止にならなかったのはありがたい」と述べ、主催者の柔軟な対応に感謝していると話します。今は、図面を引く作業に集中しているそうです。

2人に限らず、奮闘する姿はあちこちで見かけます。たとえば、マスクを製造するクリーニング兼裾上げ屋さん。病院の依頼を受けてマスクの縫製を始めたそうですが、ガラス戸を1枚だけ開けて、隣のスーパーに来る買い物客にマスクを売る姿にはたくましさを感じます。

できあがったマスク

ドイツの事例は外出制限の収束の仕方の難しさ、即時支援金の改善点を示しています。同時に、一人ひとりの姿勢からは少しの余裕を持って適度に頑張ることの重要性もうかがえます。

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