「新型コロナ」関連破たん、氷山の一角もトレンドを示す重要な指標

 「新型コロナウイルス」感染拡大で倒産や休廃業の増加が懸念されている。東京商工リサーチ(TSR)のまとめでは、4月22日現在の「新型コロナ」関連破たんは合計81件(倒産55件、準備中26件)に達する。
 日々、全国で増加をたどるなか、外出自粛や休業要請を受けて飲食店や観光業への影響は深刻さを増している。
 そんななか、「新型コロナ」関連破たんの「81件は少なすぎる」との声もある。SNSには、「TSRの集計は負債総額1,000万円以上で、それ未満で破たんが続発している」との“専門的”な書き込みもある。改めて、「新型コロナ」で苦しむ企業を取材している視点から、「新型コロナ」の影響を考察した。

 2019年(1-12月)の全国の企業倒産は8,383件だった。ひと月平均698社の企業が、法的整理(破産や民事再生など)、私的整理(銀行取引停止処分など)で倒産している。これはSNSで指摘される通り、「負債総額1,000万円以上」が対象になっている。
 一方、負債総額1,000万円未満は512件で、集計対象の8,383件の6%にとどまる。このレベルでは正直、企業動向のトレンドを把握するには心もとない。参考までに、「新型コロナ」関連で負債1,000万円未満の倒産は、北海道・すすきのでキャバレーを経営していた企業の1件にとどまる。

 ただ、「経営破たん」でなく、休廃業・解散(以下、休廃業)にも目を向けると、違う景色が見えてくる。2019年に全国の休廃業は4万3,348件で、倒産の5倍以上あった。
 「新型コロナ」関連破たんの81件を対象にすると、単純に「新型コロナ」関連の休廃業はすでに400件ほど発生している計算になる。法的倒産は官報や商業登記簿に掲載されるが、TSRは私的倒産も集計対象にしており、公告以外の取材も行っている。
 休廃業は、基本的にどこにも記載されず、網羅的な把握は難しい。TSRのまとめた休廃業の件数は、日ごろの地道な取材の積み上げによる結果だ。このため、休廃業の把握には、タイムラグはどうしても避けられない。

 政府は、「新型コロナ」の影響で経営が苦しくなった中小・零細企業を対象に、資金繰り支援のセーフティネット保証拡充などを打ち出している。各自治体でも制度融資や「休業協力金」の支給にも取り組んでいる。全国銀行協会は、新型コロナの影響を受けた企業が手形決済できなくても、「不渡り」として扱わない通知を出した。これは倒産形態の1つである「取引停止処分」の猶予に直結する。
 金融庁は、「既往債務の元本・金利を含めた返済猶予等の条件変更について、迅速かつ柔軟に対応すること」との麻生太郎・金融担当大臣の談話を公表。金融機関が借入金の返済猶予(リスケ)にどう取り組んでいるか目を光らせる。「新型コロナ」で中小企業が資金繰りに行き詰まっても、新規の融資や補助金、取引停止の猶予、リスケ対応などで、あらゆる手段を講じて新型コロナの終息まで耐えさせようとしている。

 緊急事態宣言が全国に広がり、新型コロナの感染者数は高止まりで大型連休(ゴールデンウィーク)の商戦は、ほぼ期待できなくなった。今、休業中の飲食店や商店は、テナントで入る限り家賃を支払い、従業員を抱えていれば給料を支払う。こうした固定費が日ごとに重くのしかかってくる。終息までの期間が長引けば、新規借入や先送りしたリスケも含め、負債は黙っていても膨らむ。破たんや休廃業でなくても、新型コロナの終息後に積み上がった負債をどう返済するのか。経営者には重い課題が残される。
 確かに「新型コロナ」関連破たんの81件は、氷山の一角に過ぎない。だが、中小・零細企業の実態とトレンドを映す唯一の鏡でもある。

 (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年4月24日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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