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留学生資格で平成27年に来日したベトナム人女性のミン・ホアン(仮名、裁判当時24歳)は、日本語学校を卒業した後に美容の専門学校に通いはじめました。
「私は日本が好きです。日本での生活も好きです。私にとって日本はとても美しい国でした」
法廷でそう話す彼女は日本にずっと、少なくとも専門学校を卒業するまでは滞在することを望んでいました。
在留期限は3年間、平成30年9月まで。専門学校に通い始めた平成30年5月、彼女は在留期限更新の申請をしました。しかし、ここでトラブルが起きました。申請が却下されたのです。
理由は、就労制限を破っていたこと。
留学生資格で日本に暮らしている外国人は「週に28時間まで」の労働しか認められていません。彼女はこの制限を越えた時間のアルバイトをしてしまったのです。
週に28時間、というと制限いっぱいまで働いても月に110時間ほど。
彼女の場合は、友人に紹介してもらったラーメン屋でアルバイトをしていました。時給が仮に1200円だったとして、月収は額面13万2千円です。かなり苦しい生活を強いられることは容易に想像がつきます。家族からの仕送りがあれば別ですが、それができるほど裕福な家庭ばかりでもありません。
もちろん、留学生の資格で来ている以上、仕事ばかりで学業がおろそかになっては本末転倒です。ただ、出稼ぎが目的で留学生資格で来日する者も多数いるのも事実。その点、彼女の場合は学業もきちんとこなした上でアルバイトをしていました。
それでも在留期間更新の申請は却下されました。
「ビザがおりなくて驚きました。でもやっぱりまだ日本にいたくて、あまり深く考えずにオーバーステイしてしまいました」
彼女は日本に憧れを抱いて来日しました。せっかく手にした日本での生活をそう簡単に手放したくなかったのです。
「まさかこんな大事になるとは思わなかった」
とも供述しています。
警察官からの職務質問がきっかけで現行犯逮捕されたのが令和2年2月7日、裁判が開かれたのが同年4月9日です。
2ヶ月の間、彼女は身柄を拘束されていました。
ベトナムでも日本でも前科や前歴のなかった彼女にとって、2ヶ月の身体拘束は非常に辛いものがあったと思います。
今後はベトナムで仕事をしていく、と話していましたが
「いつかまた日本に来たいと、とても思ってます。戻って来たいです」
という希望も口にしていました。
犯罪者としてベトナムに強制送還され、長期入国拒否者になった彼女の希望が叶う日は、残念ですがおそらく来ません。来たとしても何年も先のことです。
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この国は今、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために緊急事態宣言が発令されるなど、前例のない事態を迎えています。
法務省のホームページによると、日本に不法滞在をしている外国人は令和元年7月1日時点で約8万人。彼らは今、どのように過ごしているのでしょうか?
コロナが強く疑われる症状が出ても、彼らは病院に行くことはできません。
もし病院に行って診察を受けるなら、合法的に日本に滞在している友人などから在留カードを借りてその人に成り済ますなどの方法が考えられます。しかし、他人の在留カードを使うことはもちろん、他人に在留カードを貸与することも違法です。バレれば強制送還です。
彼らにも日本に残らなければいけないそれぞれ個別の事情があります。そこまでのリスクを犯してまで病院に行く人などほぼいないのではないでしょうか。
症状が出ても病院に行かない、行けない人たちが存在するという事実。
これは人道上の理由だけでなく、感染拡大を防ぐという観点から見ても大きな問題なのではないでしょうか?
今「命を守る行動」というフレーズがさかんに飛び交っています。
たとえどんな人間であっても平等にその「命」を守るための政策が為されることを強く望みます。(取材・文◎鈴木孔明)