<いまを生きる 長崎コロナ禍> 「家族との写真をイラストに」 大切な人 ふんわり描きます 

 外出自粛ムードが高まっていた3月末。福岡市の自宅で作業部屋を整理していると、本棚から色あせた写真が何枚か出てきた。佐世保市出身のイラストレーター伊達雄一さん(30)は思わず漏らした。
 「懐かしいなあ」
 まだ若い父と母と、そして、幼いころの自分。気付けば紙に向かって鉛筆とペンを走らせていた。出来上がった家族のイラストは、ふんわりと優しい雰囲気で、手元に置いておきたくなるものだった。

イラストを描く伊達さん(本人提供)

 伊達さんは昨年から福岡市を拠点に活動を始めた。シュールな画風が持ち味。月1回、各地で個展を開き、企業のロゴや名刺のデザインなども手掛けている。新型コロナウイルスが世界を席巻し人々がふさぎ込んでいる今。「大切な人を思い出すと心の支えになる。家族との写真をイラストにしてみんなの力になれないか」。そう思った。

上が伊達さんの家族写真。下が作成したイラスト(提供)

 企画を会員制交流サイト(SNS)で呼び掛けると全国の30人以上から依頼が舞い込んだ。「自分の子どものころの写真を母親にプレゼントしたい」「息子の写真を絵にしてほしい」…。離れて暮らす家族への贈り物がほとんど。数年前になくなった祖父の写真を依頼する人もいた。家族、友人、恋人…。「日常」が失われてしまった今、依頼者の多くが大切な人への思いを深めていた。
 作品を受け取った依頼者たちから「ありがとう」「また頼みます」と感謝のメールが届く。伊達さんは「思い出の写真であれば何でもいい。また『日常』に戻ったとき、もっと色んなつながりが強くなったらいいなと思う」と話す。
 知らない家族たちのイラストを描きながら、伊達さんもまた、日々家族のことを考える。「そう言えば、父親と酒を飲んだことなんてなかったな。コロナが終息したら、2人で飲みにでも行くか」。「コロナ以前」なら、考えもしなかったささやかな目標。今はそれで、頑張れる。
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 イラストの問い合わせはメール(yuichidate1031@gmail.com)で5月末まで受け付ける。1枚3千円。ポストカードサイズ(送料込み、おまけ付き)。インスタグラム(@date_u1)で作品を閲覧できる。集まった写真とイラストで個展も検討中。

 

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