2019年度全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査

 2019年度(2019年4月-2020年3月)に「不適切な会計・経理(以下、不適切会計)」を開示した上場企業は69社(前年比27.8%増)、案件は73件(同32.7%増)だった。
 集計を開始した2008年度以降、2017年度の64社、案件数64件をそれぞれ上回り、過去最多を更新した。
 不適切会計の開示は、2008年度は27社だった。その後、増勢をたどり、2017年度に過去最多の64社を記録した。2018年度は54社と落ち着いていたが、2019年度は再び増加に転じ69社と過去最多記録を塗り替えた。2019年度に不適切会計を開示した69社の市場別では、東証1部が39社(構成比56.5%)と5割強を占めた。
 内容別では、最多が経理や会計処理ミスなどの「誤り」で28件(同38.3%)。次いで、子会社で不適切会計処理などの「粉飾」が27件(同36.9%)だった。産業別では、最多が「製造業」の30社(同43.4%)。次いで、サービス業の10社(同14.5%)と続く。
 上場大手企業の相次ぐ不適切会計の発覚で、改めてコンプライアンス意識が高まっている。また、金融庁や東証、監査法人も不適切な会計・経理を防止する体制作りを求めており、企業側の本気の体制作りが急がれる。

  • ※本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料を基に、上場企業、有価証券報告書提出企業を対象に「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た企業、今後影響が出る可能性を開示した企業を集計した。
  • ※同一企業で調査期間内に2回内容を異にした開示の場合、社数は1社、件数は2件としてカウントした。
  • ※業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、東証1部、同2部、マザーズ、JASDAQ、名古屋1部、同2部、セントレックス、アンビシャス、福岡、Qボードを対象にした。

開示企業数 2019年度は69社(73件)

 2019年度(2019年4月-2020年3月)に不適切会計を開示した上場企業は69社で、(株)MTGとすてきナイスグループ(株)、ユー・エム・シー・エレクトロニクス(株)、(株)東芝の4社は、それぞれ2件ずつ開示した。
 上場企業は国内市場の成熟から、メーカーを中心に海外市場へ売上拡大を求める動きを強めている。だが、拡大する営業網にグループ会社のガバナンス(企業統治)が徹底せず、子会社や関係会社に起因する不適切会計の開示に追い込まれる企業が増えた。また、2020年1~3月には海外・国内子会社やグループ会社の従業員による不正行為などの開示も目立った。
 新型コロナウイルスの感染拡大で、国内外で在宅勤務や外出自粛が続き、在庫の確認など決算をまとめるのに必要な作業が困難となったため、2020年4月以降、上場企業では決算発表の延期が増えている。企業会計は、当然だが厳格な運用を求められる。だが、新型コロナウイルスに対する企業側の対応が遅れ、現場で会計処理を誤る事例などが生じるリスクも高まっている。

内容別 「誤り」が最多の28件

 内容別では、最多が「誤り」で28件(構成比38.3%)だった。ラオックス(株)は、過去の企業結合等の会計処理で被買収会社の評価差額金の按分や計上および取崩等で誤謬があることが判明。過年度有価証券報告書などを訂正した。
 次いで、「架空売上の計上」や「水増し発注」などの「粉飾」で27件(同36.9%)。日本フォームサービス(株)は、売上の前倒し、営業費用の繰延べなど、利益を過大に計上する不適切会計処理が行われていたことが判明。東証から上場違約金の徴求を受けた。
 また、子会社・関係会社の役員、従業員の着服横領は18件(同24.6%)だった。「会社資金の私的流用」、「商品の不正転売」などで、個人の不祥事にも監査法人は厳格な監査を貫いている。

発生当事者別 「会社」が27社でトップ

 発生当事者別では、最多は「会社」の27社(構成比39.1%)だった。会計処理手続の誤りや事業部門での売上の前倒し計上などのケースがあった。
 「子会社・関係会社」は24社(同34.8%)で、子会社による売上原価の過少計上や架空取引など、見せかけの売上増や利益捻出のための不正経理が目立つ。「会社」と「子会社・関係会社」を合わせると51社で、社数全体の約7割強(同73.9%)と大半を占めた。

市場別 東証1部が39社でトップ

 市場別では、「東証1部」が39社(構成比56.5%)で最も多かった。次いで、「ジャスダック」が12社(同17.4%)、「東証2部」が10社(同14.5%)と続く。
 2013年までは新興市場が目立ったが、2015年から国内外に子会社や関連会社を多く展開する東証1部の増加が目立つ。

産業別 最多は製造業の30社

 産業別では、「製造業」の30社(構成比43.5%)が最も多かった。製造業は、国内外の子会社、関連会社による製造や販売管理の体制不備に起因するものが多い。
 次いでサービス業10社では、元役員や元社員が不明瞭な外部取引を通じてキックバックを行い着服横領したケースなどがあった。

 2019年度の不適切会計の開示は69社、案件数73件で、いずれも過去最多を記録した。
 2015年5月に発覚した東芝の不適切会計を契機に、監査の信頼性確保が強く求められるようになっている。その東芝は2020年4月3日、東証1部への復帰を申請した。東芝は米原子力事業で巨額の損失を計上して債務超過に陥り、2017年8月に2部に降格。同年12月の増資により債務超過を解消し、その後は、半導体メモリーや家電などの事業を売却するなどで経営を立て直し、東証1部への再上場にたどりついた。だが2020年1月、連結子会社の東芝ITサービス(株)で架空取引が発覚し、上場審査が通常より長引く可能性もあり、今後の展開が注目される。
 金融庁は4月14日、「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」を公表した。今後、3月期決算企業や監査法人が従業員や監査業務に従事する者の安全確保に十分に配慮し、決算・監査業務のために十分な時間を確保できるよう、有価証券報告書等の提出期限について一律に2020年9月末まで延長可能とする企業内容等の開示に関する内閣府令等を改正した。
 今後、上場企業には、新型コロナウイルス感染拡大について、企業会計におよぼす悪影響を最小限に食い止め、不適切会計や経理を発生させないよう、これまで以上に内部管理体制の改善に努めることが求められている。
 一方、監査法人も提出が延長された企業の本決算や四半期決算などの監査を一気に進めるための体制づくりが急がれる。企業、監査法人ともに不適切会計を避けるための協調体制が必要になっている。

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