楽天のPCR検査キットで「陰性証明」を試みることの是非について、医師に聞きました

先日当メディアで取り上げた楽天のPCR検査キットだが、臨床の医師だけではなく日本医師会の横倉会長までが4月22日の会見ではっきりと懸念を表明した。ほぼ日本の医療関係者すべてが、この検査キットの価値についてまったく認めない事態となっている。しかし、現在も楽天が設置した販売ページでは「問い合わせが多数入っている」と表示しており、ニーズがあることを強調している。また、他のメディアに対する取材では「建設業、医療機関、テレビ局などからも問い合わせがある」と明かしているもようだ。

別の報道では、上司に指示されるなどして無症状の人がPCR検査を求めて相談に訪れ、陰性証明を得ようとすることで、ただでさえ新型コロナ対策で逼迫している医療機関の手間を増やしていることが指摘されている。おそらくこのような企業側のニーズが、楽天の検査キットを求める動きにも繋がっているのだろう。

このような状況がある中で、編集部では改めて楽天のPCR検査キットの医療的価値、また仮にこの検査キットで「陰性証明」を試みようとすることについて、特に地域での臨床に取り組まれている2人の医師からコメントをいただいた。

「感染拡大に繋がるリスク」「絶対に容認できない」

まず医療法人社団弘寿会理事長(MIZENクリニック豊洲、市ヶ谷を経営)で医師の田澤 雄基氏は、編集部の取材に以下のように回答した。

「一般的に検査は検査前確率を医師が見積もった上で、必要な感度特異度を持った検査を行なってはじめてその方の実際の病気の確率がわかるもの。まず自己検査の場合、その検査前確率が分からないので、検査を行なっても実際に病気かどうかについては、なお不確定な部分が多い。特にPCR検査は感度が低いと言われており偽陰性が多く出る確率が高く、その場合、その方は本当は感染していることになり感染拡大につながるリスクがある。
 また、検体を鼻腔からスワブで採取する行為はかなりの痛みを伴う。本当に本人の希望で実施するなら自己責任とも言えるが、間接的にでも会社や上司の都合や指示で行うことは、倫理的に問題がある」

  田澤氏はPCR検査自体の精度の問題と、当編集部が前回の記事で指摘したように医師が関わらない自己検査の信頼性、さらに「陰性証明」を求める動きについても明快に否定した。

 東京都下の感染拡大対応のため、独自の「PCRセンター」設置にも取り組んだ東京都医師会理事で、医療法人社団茜遥会 目々澤醫院 院長の目々澤肇氏も次のように厳しい評価を下している。

「PCR検査には偽陰性の出る確率もあり、そうした症例には、保健所管理でPCRを行っていた場合はきちんと保健所からのフォローアップが入ってくる。先日来、都内などで運営開始された検査専用のPCRセンターでで行った場合には、検査要請を行ったかかりつけ医がフォローアップをすることになっている。それ以外での検査を行えうると言うのはとても看過できるものではない。ましてや「陰性証明」をこのPCRで、という動きには絶対に同意できない」

 検査をした後に医療関係者の何のフォローもないのでは、結果的に治療開始が遅れたり、感染拡大を招く可能性を否定できない。また、医療的価値が不明な自己検査で陰性の結果が出ても「陰性の証明」になど絶対にならない。自己検査にともなう危険と混乱、さらに感染拡大の可能性を医療機関や世間に拡散するだけだろう。なお、取材に答えた2人はともに産業医の資格も持っており、企業側が陰性証明を求める動きに対しても、専門家として重要な示唆と懸念を示した格好だ。

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