この曲ヤバイ! イントロにも歌詞にも驚いた「プラスティック・ラブ」
1997年の夏。川崎市に住んでいる日本人の文通友達からミックステープをもらったことがある。その後、いろんな事情でお互いに連絡が途切れてしまったけれど…(ジャーナリストへの夢を持っていた石川さとこさん。もしこのコラムを見ていたら連絡ください)。その彼女が送ってくれたミックステープの中には「プラスティック・ラブ」と「もう一度」という曲が入っていた。私にとっては初めて聴く歌手の曲だったので、“多分デビューしたばかりの新人歌手の凄くいい曲” という印象…
そして「プラスティック・ラブ」の前奏を聞いたとき、“この曲ヤバイ!” という思いが口に出てしまった記憶がある。
また、竹内まりやという歌手の名前も英語の “Mariah” や “Maria” ではなく "Mariya" なのでユニークだったし、歌詞も韓国人の立場では驚くほどの内容だった。その当時、韓国も女性に求められる社会的な基準があったが、「プラスティック・ラブ」はその基準を気持ちよく蹴飛ばしてしまったのだ。
韓国では、80年代生まれの若者から絶大なる支持
そう、2007年くらいから、この「プラスティック・ラブ」は1980年代生まれの韓国の若者から絶大なる支持を受ける曲になる。
若い歌手のリメイクで原曲が話題になることはあるが、原曲が時を越えてリバイバルとして愛される場合は、映画やドラマに挿入されたりするケースが多い。ところが、この「プラスティック・ラブ」はそのようなことはなく、生命力を得て、今もソウルのクラブではこの曲で踊ったり歌ったりする若者が沢山いる。
それはまるで80年代に私の母が読んで、90年代に私が読んで、2020年の若者たちが読む村上春樹の『ノルウェイの森』がスタディーセラー(※1)となったように。
さらに、アルバムの中古取引価格も、ますます買えない値段になっている。私は日本で、この曲が収録された竹内まりやのLP『ヴァラエティ』を1,000円で購入したことがあるが、韓国では約10,000円で取引されているのを目撃したことがある。今はどのくらいまで値段があがっているのだろうか。
韓国人DJ Night Tempo のリミックスバージョンが火を付けた?
その後、リマインダーでも言及されたフューチャー・ファンク系の韓国人DJ、Night Tempo のリミックスバージョンをきっかけにこの曲は全世界に広がった。
たとえばインスタグラムで “plasticlove” と検索すると、様々な国の人が投稿していることがわかる。「プラスティック・ラブ」は日本人にとって自慢できる曲であるはずだ。
個人的に思うのは、延期になってしまったが、東京オリンピックの開幕式には竹内まりやショー… なんてものがあって、山下達郎さんがバックでギターを弾きながら、埋め尽くされた会場で「プラスティック・ラブ」を熱唱するのだ。オリンピックの精神に合うだろうし、世界平和に寄与するところではないだろうか… なんてね。
韓国でも大人気! 竹内まりやのシティポップ
さて、韓国の若者たちの「プラスティック・ラブ」に対する反応をまとめると、次の通りである。
■ この曲を聞いて、シティポップにはまってしまいました。
■ 本当に新鮮です。
■ 竹内まりやさん本当にきれいです。
■ この「プラスティック・ラブ」を聴いて、彼女の他の曲も聴いたのですが、ギャップがとても大きいです。
■ まるで違う歌手のようです。
前から竹内まりやの曲を聴いていた人だと、この「プラスティック・ラブ」が、彼女が変わった転換点であり、「駅」のような曲も彼女の雰囲気であることを知っているが、若者たちはそうではないから、さきに挙げた「ギャップがとても大きい」「まるで違う歌手のよう」というのも予想できる反応だ。
「プラスティック・ラブ」は、竹内まりやが目指す音楽の方向性の転換だったのかもしれない。でも、この曲の存在感の大きさから、私は必ずしもそうではなかったと思う。竹内まりやは、いつだってまじめに音楽に取り組むロマンチストだと思うから。
※1:スタディーセラー:ベストセラーのような売上ではないが、長期間安定的に売れるもの
カタリベ: 瞬間少女