「警察庁」発表のデータを読むと“身近な危険犯罪”投資詐欺の実態が見えてくる

警察庁が毎年発表している「生活経済事犯等の検挙状況等について」を知っていますか。その年に生じた私たちの生活に関係の深い犯罪に関する報告書で、警察庁のサイトから誰でも入手できます。自分の大事な資産を守るためにも、ぜひ一度見てみてください。


投資詐欺事件の統計を読む

普段、警察庁のサイトを見る人は少ないと思うのですが、現実問題として私たちの周りでどのような犯罪が行われているのかを知るうえでとても役に立つので、時間のある時にアクセスしてみてください。

そして今回、取り上げる「生活経済事犯等の検挙状況等について」という統計資料は、私たちの生活に潜んでいる犯罪に関するものです。電話勧誘販売や訪問販売に関する「特定商取引等事犯」、高金利融資に絡む「ヤミ金融事犯」、違法廃棄物などの「環境事犯」、医師法違反や食品衛生法違反などの「保健衛生事犯」など、その中身は多岐にわたっていますが、今回特に注目したいのは利殖、つまり資産運用などに関連した「利殖勧誘事犯」に関する統計です。もっと平たい言葉で言うと「投資詐欺事件」です。

警察庁のサイトのどこを見れば良いのかというと、トップページを下にスクロールしたところに、「統計」というタブがありますので、これをクリックしてください。次に「生活安全の確保に関する統計等」をクリックすると、犯罪情勢や行方不明者といった統計の種類が現れ、そのなかのひとつに「生活経済事犯」があります。これをクリックすると、直近4年分の統計データを閲覧できます。

令和元年の被害総額は1037億9134万円!

さて、令和元年のデータを見てみましょう。以下、「利殖勧誘事犯」に限って説明していきます。

まず検挙された件数ですが、全部で41件でした。具体的にどのような内容の詐欺事件だったのかというと、最も多かったのが「集団投資スキーム」で、その被害額は、令和元年の被害総額1,037億9,134万円のうち50%に相当します。

集団投資スキームとは別名で「ファンド」と明記されているように、不特定多数の出資者から集めた資金を、有価証券や事業に投資して利益を得て、それを出資者に配分することを商材とした犯罪のことです。私が昔取材した経験で言いますと、ニューヨークに拠点を置いているヘッジファンドの日本法人が六本木にあり、「外国籍投資信託」と称して一定の利回りと元本を保証し、不特定多数の人たちからお金を集めていました。かれこれ20年も前の事件です。

この主犯格の人物はさらに証券会社を買収し、そこを通じて元本保証、確定利回りを確約した債券を募集・販売した後、顧客から預かっていた株券を夜中に持ち逃げして行方をくらまし、その証券会社は破綻するという、とんでもない結末になったのですが、この手の集団投資スキームを用いた詐欺事件が、今も相変わらず行われていることを、この数字は物語っています。

その他どのような投資詐欺の種類があるのかというと、被害額で集団投資スキームに次いで多いのが「その他」の41.1%で、これは主にマルチ商法によって利益が得られる権利を商材にしたものが含まれています。

それ以外は、いずれも被害額としてはそう大きくありませんが、デリバティブ取引が4.2%、その他預かり金が3.2%、公社債が1.5%です。

「デリバティブ取引」とはFXや商品先物取引、CO2排出権取引などを商材とした詐欺です。「外国為替のプログラミング取引で月利2%の確定利回りをお返しします」といった類のサービスは、疑ってかかるべきでしょう。

「その他預かり金」は元本保証のうえで不特定多数の人たちから金銭を預るもので、投資対象が不明なものが含まれています。過去、事件化したものだと和牛やマンゴー、エビなどのオーナー商法がこれに該当します。

そして「公社債」は債券を商材とした詐欺のことで、そもそも償還させる意思が全くなく、集めた資金を自分たちの遊興費などに費消するために発行された債券が商材とされるケースが多いようです。

増える若者層の相談件数

以上が利殖勧誘事犯の具体的な種類ですが、令和元年の統計を見て、ちょっと意外なことに気付きました。

かつて投資詐欺の被害者といえば高齢者が中心でした。それは今もさほど大きな違いはないようにも思えるのですが、「これ詐欺ですか?大丈夫ですか?」といった類の相談件数を年齢別に見ると、高齢者よりも若者の件数が増加しているのです。平成28年と令和元年を年齢別構成比で比較すると、平成28年は57.5%を占めていた65歳以上が、令和元年には23.5%まで低下する一方、20歳代が3.8%から17.7%に、30歳代が4%から11.6%に、40歳代が8.1%から14.1%に、そして50歳代が9.5%から16%に、それぞれ増えています。

なぜでしょうか。

これはあくまでも筆者の推測ですが、現役世代の資産形成に対する関心が高まっているからではないでしょうか。

資産形成への関心が高まっているのは、決して悪いことではありません。ただ、安易に「安全・有利」を謳い文句にした商材に食いつくと、投資詐欺に引っ掛かってしまうリスクを招き入れてしまいます。ちょっとでも「怪しい」と思ったら近づかないこと。株式投資で資産が半分になったというのは可愛いもので、投資詐欺に引っ掛かると、全財産を失うケースさえあります。

自分自身に対する注意喚起の意味も込めて、警察庁の統計をぜひ、チェックしてみてください。

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