船内は巨大な「3密」 医療崩壊防ぎ社会維持を 長崎大・森田氏 インタビュー

「『3密』を避け、家にいるという方法が(対策として)一番効果的だ」と話す森田所長=長崎市、長崎大熱帯医学研究所

 〈新型コロナウイルスの感染拡大により、緊急事態宣言が全国に拡大。本県では長崎市で停泊中のクルーズ船内において、乗組員の集団感染が発生。県は遊興施設などに休業要請した。全国的に感染者の増加に歯止めがかからない中、現状の分析や対策の有効性、今後の展望などについて、ウイルス学の専門家、長崎大熱帯医学研究所(熱研、長崎市)の森田公一所長に聞いた〉

 

 -感染拡大が続いている。外出自粛といった対策は有効なのか。
 新型コロナに関しては治療薬、ワクチンがないのが現状。対策は古典的な隔離、あるいは接触を避けることしかない。「3密」(密閉、密集、密接)を避け、家にいるという方法が一番効果的だ。
 新型コロナ対策が難しいのは、これまでの重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)といった重症コロナウイルス感染症と比べ、感染者の発見が難しいからだ。SARSは重症者が病気をうつしていたので、隔離する戦略で封じ込められた。だが新型コロナは症状がない感染者からもウイルスが出ていて、しかも感染する能力がある。

 -長崎市でクルーズ船内のクラスター(感染者集団)が発生し、医療への影響や市中感染に対する懸念が広がっている。
 熱研でも乗組員の感染の有無を調べる検査に協力している。船内はいわば巨大な「3密」状態で、感染が急速に広がったとみられる。「3密」を避けることがいかに重要かを、改めて見せつけたといえる。
 医療への影響は現時点で何とも言えないが、高齢の乗客がいた「ダイヤモンド・プリンセス」での集団感染に比べ、今回は乗組員だけで年齢層が比較的若い。重症化率は幾分低いのではないか。市中感染の可能性については、市内に濃厚接触者がいるかの追跡結果を待つしかない。いるとすれば、感染拡大を防ぐ「封じ込め」策が取られていく。

 -今後、国内の感染者数はどう推移するとみるか。
 夏になると感染拡大のペースが落ちるかもしれない。窓を開けたりして室内の換気もさらによくなるし、環境中のウイルスは温度が高いほど早く死ぬ。ただ、第2波も心配。1818~20年のスペイン風邪は、2年続けて世界的に流行した。夏を乗り切っても次の冬が課題だ。
 やがて感染が人口の6~8割に及べば、集団免疫という現象で感染が無制限には広がらなくなる。だが、急激に感染が進むと世界レベルで何十万、何百万という人が確実に死ぬ。一番の優先順位は医療崩壊を防ぐこと。崩壊すると、新型コロナ以外の病気で普通なら助かる人も、治療を受けられず死んでいく。これを避けながら、社会を維持する必要がある。

 -長崎大熱帯医学研究所(熱研)は、どのような形で新型コロナウイルス対策に関わっているのか。
 診断薬、治療薬、ワクチンを開発している。2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が出現したときも診断薬、ワクチンを試作しており、その際に培った戦略、手法を役立てている。そうした意味でも研究の継続は重要。
 政府に言いたいことだが、SARS流行時は研究予算がたくさん付いたが、その後は減った。感染症の研究と予防は常に重要だ。

 -開発の見通しは。
 いろんなところが、いろんなワクチンの開発に取り組んでいる。しかし、基本的に新しいワクチン作りは5年、10年の仕事。報道では最大限急いで「1年」とされているが、やってみないと分からない。

 -新型コロナ感染症の出現は予想されていたのか。
 コロナウイルスは昔から知られているが「鼻風邪のウイルス」という位置付けで軽く見られていて、研究も進んでいなかった。ところが、03年にSARSウイルスが大流行して、皆が衝撃を受けた。それでも、一番警戒されていたのは、人の重症事例が数多く報告されていたH5型やH7型の高病原性鳥インフルエンザだった。

 -新型コロナは、どこからきたのか。
 元々、自然界のコウモリの中にいた。今回の新型と似たウイルスはコウモリの体内に生息しており、これらが人に感染するかは、病気が出てきたときしか分からない。そもそも自然界で、人間が既に存在を知っているウイルス自体が全体の10分の1程度。未知のウイルスがまだあり、既知のウイルスでも、いつ人に病原性を持った形で出現してくるか分からない。

 -新型コロナ後も、新たな感染禍が起きるのか。
 天然痘のように、人にしか感染しなくなったものは根絶可能だが、新型コロナなどのウイルスは自然界の動物と共生しており、根絶は不可能だ。歴史上、新たな感染症は頻繁に現れており、現代は交通の発達によって、より短期間に病気が広がる。
 新型コロナは死亡率2、3%だが、毒性の強いウイルスだと20~50%に上る。今回を教訓に、薬剤や診断法の開発・研究を続けておかなければならない。

 -個人はどう考え、行動するべきか。
 個人でも、飛沫(ひまつ)感染を避けるため可能な対策を考えることだ。感染の仕組みを理解し、どう感染を防ぐかを考え、やれることをやっていく。ワクチンや治療薬ができるまで、少しライフスタイルを変えてみる。新しいアイデアで極力ストレスを減らして生活してほしい。

 

 【略歴】もりた・こういち 1956年生まれ。愛媛県出身。長崎大医学部卒、同大学院医学研究科修了。熱帯ウイルス感染症や新興ウイルス感染症が専門。95年から3年間、世界保健機関(WHO)に派遣され、西太平洋地域事務局感染症対策課長を務めた。2001年から同大熱帯医学研究所教授。13~17年、同研究所長、19年から再び所長を務めている。

 


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