さだまさしさん 自伝エッセー集「さだの辞書」 餅つき、くんち…折々の思いも

さだまさしさんのエッセー集「さだの辞書」

 長崎市出身のシンガー・ソングライター、さだまさしさんが、幼少期のエピソードや折々の思いをユーモアたっぷりにつづったエッセー集「さだの辞書」(岩波書店)を出版した。さださんは長崎新聞社の電話インタビューで「コロナ禍の影響で外出を自粛している人たちが、この本を読んでほっとした気持ちになってもらえたらうれしい」と話している。
 本書は岩波書店の雑誌「図書」の連載「さだの辞書」(2018年1月号~19年12月号)を再構成、新たなエピソードを追加するなどして1冊にまとめた自伝的な本。
 家族や故郷など自身のルーツ、音楽活動を通じて出会った人との縁などがテーマ。25話で構成。1話ごとに「賃餅・床屋・去年今(こぞこ)年(とし)」など、ストーリーに沿った三つのキーワードをつなげたタイトルが付けられている。「どのようなエッセーにするか迷ったあげく、落語好きの自分らしく、『三題噺(ばなし)』のようになってしまった」とさださんは語る。
 思い出深いのは、幼少期の「賃餅」の話と言う。昭和30年代の高度経済成長期、父親が材木屋を営んでいたさださんの家は羽振りが良く、年末になると親類や使用人らが集まって盛大に餅つきをしていた。しかし、1957年の諫早大水害で材木を流され没落。父親は材木の仲買をしながら家族を養った。以前のように餅つきができなくなったさださんの家は、もち米の代金に手間賃を乗せて餅をつく「賃餅」を請け負う店から正月の餅を調達するようになった。
 さださんは「年の瀬に届く賃餅の数が少ない年は家計が心配で、自分の未来が闇の中にしぼんでいくような焦燥感におびえた」とつづっている。当時を振り返り、「今でも正月に餅を見ると、ほっとした気持ちになる」と語る。
 くんちをテーマにした話では、「長崎っ子」の一面がうかがえる。「陰暦9月9日に例大祭が行われたのが、くんちの語源」とし、「幕府から給付された海外貿易の利益の一部を、町人が祭りに散財するようになり、くんちはその象徴になっていった」などと成り立ちを説明。2009年に母親が暮らす今籠町が踊町になり、奉賛会名誉会長として黒紋付き、はかまに山高帽の姿でくんちに臨んだ経験も記している。
 約2年間、連載を重ね、そのうちの1話「飛梅・詩島・伊能忠敬」が「ベスト・エッセイ 2019」(日本文藝家協会編・光村図書出版)に採用された。さださんは「うれしい出来事だった。今後も機会があればエッセーを書きたい」と意欲を述べた。
 「さだの辞書」は、四六判、176ページ。1650円。

 


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