保育現場で「三密」を避けるのは困難…約2カ月、葛藤が続いてきた現場の声

2020年2月27日。日本政府より臨時休校要請が出され、子育て家庭や学校現場に激震が走りました。新型コロナウィルス感染拡大については、刻一刻と状況が変わっています。

政府の方針も二転三転するなか、地方自治体や教育委員会、学校現場、保育園や学童保育所などは、そのたびに対応に追われ疲労困憊しています。子育て家庭からは、特に仕事をもつ親たちから死活問題だと悲鳴が上がっています。

保育士や、働く保護者らの声を聞きながら、2月末から3月、4月の、保育現場や学童などの状況と、その変移を追いました。


普段なら注意されないことでも叱られる子どもたち

2020年4月7日、日本政府が最初に緊急事態宣言を発令した際の対象地域(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・大阪府・兵庫県・福岡県の7都道府県)のひとつであり、また4月16日には緊急事態宣言の対象を全国に拡大するとともに、特に重点的に感染防止の取り組みを進めていく必要のある「特定警戒都道府県」のひとつとされた大阪府。

保育士のAさん(女性、30代前半)は、小学生のわが子を学童に預けながら仕事を続けています。保育園では、手洗いの指導、マスク着用、食事の見守りなど、命を預かる立場として、いつも以上に神経を尖らせているといいます。給食は停止しており、各家庭から弁当を持参。食事中は、ひとりひとりの席を離して見守るといいます。

「三密」を避けるため、園内は換気をよくし、園での過ごしかたも、子ども同士が近距離で集まったり接触しすぎたりしないよう指導しています。しかし、子どもたちはどうしてもくっついていきがちなため、いつも以上に目を離せない上、その度に注意しなければなりません。

「かなり気疲れします。子どもたちも、普段なら注意されないようなことで叱られてしまうことがストレスになっているようです。連絡帳を見ると、ご家庭から、お子さんのいつもとは違った様子や、不安定であることについてご相談が多くて…。私も保育士として、また子育て中の身としても、よくわかります」

学童保育の対応も地域により異なる

2月27日に出された臨時休校要請の対象に、保育園や学童保育所は含まれてはいませんでした。しかし、その時点でも対応は各保育園や学童、地域などによって異なったようです。

また中高生や大学生など年長のきょうだいが、保護者の仕事中に、未就学児や小学校低学年の弟や妹とともに留守番をするという家庭もありました。

一部の学童保育所は、臨時休校中も学童保育は継続するとし、さらに「臨時休校に伴って、学童保育への新規入所・緊急入所を希望する場合は、市区町村の役所にて保護者が手続きを行なうことで、順次受け入れる」としました。

普段、子どもが学校に行っているあいだ、パートタイム勤務や時短勤務で働く保護者や、病気療養中で、医師の診断に基づき、子どもが学校で過ごす時間を自宅静養の時間に充てることが必要である保護者などの需要に応えたかたちです。

学童保育所は、保育園と同様、預かり児童の人数が増えれば、それに伴って支援員を増員する必要があるため、それが可能か否かによっても新規入所・緊急入所の受け入れ体制は左右されたようです。また支援員を急募する学童保育所もあったそうです。

臨時休校に際し学童の申し込みを行った、未就学児と小学生二人、三人の子どもを育てるBさん(女性、40代)は、子どもたちがそれぞれ幼稚園や小学校に行っている時間、短時間のパート勤務をしていました。

「都市部や、また地方でも子育て家庭に人気のエリアでは、学童も、保育園とおなじで、待機児童を抱えていると聞きます。私の住んでいる市区町村、子どもの学区内の学童では、たまたまそのように臨時休校で新たに受け入れてくれるということで、ほんとうに助かりました。ありがたいですね。でも同じ県内なのに、隣の市区町村に住む友人に聞くと、学童は常に待機児童がいるような状態なので、臨時休校によって、新たな子どもを受け入れるという対応はなかったそうです」

Bさんが急遽利用することとなった学童保育所も、臨時休校中に、万一、学童内で感染が発生するなどといった事態となれば休所するという方針でした。しかし、4月7日に7都道府県へ緊急事態宣言が発令されたことを受け、休所となったそうです。

登園自粛をお願いすることに葛藤を覚えた

このように事態は刻一刻と変わっており、休園・休所をする保育園や学童保育所も少なくありません。Aさんの保育園ではどうなのでしょうか。

「3月からは、時短勤務や勤務時間の短縮、休業などになられた保護者のかた、在宅勤務やリモートワークの可能なご家庭などへは、基本的に登園を極力自粛していただくよう、安全な保育へのご協力をお願いしています」

働く母親の苦労が身をもってわかるだけに、自粛をお願いすることに葛藤を覚えたといいます。

「自粛のご協力をいただいているとはいえ、それでも3月〜4月初旬まで、通常時の半数ほどは登園していました。また平常時にはない特別な配慮や対応が必要なので、保育士の負担は身体的にも心理的にも増し、保育現場は疲弊しています」

また在宅勤務の可能な保護者であっても、すべての業務を在宅でできるとは限りません。在宅勤務のできる日と、出社せざるを得ない日とがある家庭も少なくないそうです。

「そのため、登園する日と、お休みをして家庭で過ごしていただく日とのあるお子さんもいますね。様子を見ていると、久しぶりに保育園でお友だちに会える嬉しさよりも、戸惑いを感じている印象のほうが強いですね。いまは保育中は、子どもたちも保育士も、ずっと皆、マスクをしている状態でしょう?
それで、お互いの顔や表情が見てとれないことも、子どもたちの戸惑いに輪をかけているように感じられます」

Aさんは、自らも子育て中の母親でありながら、保育士としての職務を果たすことへ努めています。

不本意とはいえ、家庭へ登園自粛の協力を求めなければ、保育の安全性を保つことはもちろん、保育士も必要十分な休養をとることが難しくなってしまいます。

保育士、保育園の職員や、学童の支援員らが十分な休養をとることができず、心身の疲労が重なれば、免疫力の低下や、心身の健康を損ねることに繋がりかねません。

保育士は、ただでさえ、平常時から重労働や低賃金の問題が叫ばれている職種です。現在の新型コロナウィルスの感染拡大下においては、なおのこと、過重労働や過剰な負担から守られるべきではないでしょうか。

名古屋市や、東京都港区の保育園で、保育園の職員が感染し、感染が発覚する前に園児らと接触していたことも報道されました。

新型コロナウィルスの問題が発生する以前から、通常時にもいえることですが、保育士や職員、支援員の心身の健康を保つことは、安心かつ安全な保育環境の維持に繋がります。

ひいては、それがひとりひとりの子どもたち、そして保護者や子育て家庭の安心、保護者の仕事を含めた社会生活や、安定した暮らしの基盤となるのは自明の理です。現在は、未曾有の事態により、経済基盤や社会生活そのものが、根本から脅かされている状態です。

保育士へ苛立ちをぶつける保護者も

さらに4月7日に出された7都道府県への緊急事態宣言を受けて、Aさんの勤務する保育園でも方針が変更されたといいます。

「4月13日から、保護者のかたが、医療や看護、介護関係など、生活に必要不可欠なインフラに関する職種であるご家庭以外のお子さんは預かることができない、ということになりました」

4月10日に、保護者への一斉メールで配信した上で、迎えにきた保護者たちへ、ひとりひとり文書で保育条件を示しながら説明をしたそうです。

「どうしよう…と愕然とする親御さんがほとんどでした。祖父母や親族など頼る人のいないご家庭もあれば、ひとり親のご家庭もあります。私たちもお伝えしていて、とても心苦しくて…。私自身、保育士である前にひとりの働く母親でもありますから、大変さやお気持ちはとてもよくわかりますから」

保護者の反応をより詳しく聞くと、困惑する人、不安やショックを隠せない人、怒りをあらわにする人など、さまざまだったそうです。

「この状況ではしかたがないですね。うちは実家も遠く、親や親戚も高齢ですし、実母は糖尿病で基礎疾患もあるので手伝いにきてもらうというわけにもいかなくて…。でも、どうにか手段を考えます。先生たちも大変ですよね。お身体に気をつけてくださいね」と保育園や保育士に対し、気遣いを見せる保護者もいました。

しかし子どもの手を引き、とぼとぼと帰るうしろ姿がいつもより小さく見えて、先の見えない不安が滲み出ているようだったと、Aさんは振り返ります。

若手の保育士のなかには、保護者から苛立ちをぶつけるかのように「どうしろっていうの?!」と詰め寄られた人もいたといいます。

子どもを預けて働く保育士たちも対応を余儀なくされている

4月7日の7都道府県を対象とした緊急事態宣言の発令、そして16日には対象地域を全国に拡大するとされ、状況は刻一刻と変わっています。保育園や学童、学校の対応は、その都度、変更や協議を余儀なくされています。

未就学児のわが子を、勤務先とは別の保育園に預けていたり、小学生のわが子を学童に預けたりして働く保育士のなかには、

・勤務先の保育園は休園対応をとっておらず、出勤しなければならない
・自分の子どもの預け先である保育園や学童が、休園や休所措置を取ることとなり、わが子を預けられない

という板挟みになっている事例もあります。

保育士も、保育士である以前に、ひとりの人間です。

家庭を持つ母親であったり父親であったり、妻であったり夫であったり、あるいは孫を持つ祖母であったりします。また単身者も、親やきょうだい、大切な家族のいる、誰かの娘であったり息子であったりします。親や親族に、要介護者や障害者がいて、介護をしながら保育に従事している人もいます。

コロナ禍による失業や収入減、倒産、外出自粛、年度を跨いで長引く休校など、いま私たちの生活基盤は、大きく揺らいでいます。世界中で、あらゆる人々が、先の見えないなか、さまざまな苦境下に置かれています。それぞれ状況は違えども、誰もが苦しい状況にあります。

誰かを非難したくなったり、攻撃的な暴言を吐いたり、ネガティブな感情が渦巻いていたりする人たちも、非常に多くいます。そのような心理状態に陥りやすい状況であり、無理からぬことであるとも感じます。

しかし、あなたのその感情の矛先にいる人も、一生活者であること。決して楽な暮らしなどしておらず、誰もがなんらかの苦境下にあること。苦しみは、その人それぞれの固有のものであって、他者と比較するものなどではないこと。そのことを心に留めておきたいと感じます。

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