波佐見陶器まつり延期、受注激減 窯業のまち 模索続く  危機を好機に ウェブ発信で活路

「桜陶祭」が中止となった中尾山交流館のギャラリー。例年多くの人でにぎわうが、静かだった=波佐見町中尾郷

 新型コロナウイルスの感染拡大で、窯業のまち長崎県東彼波佐見町も苦境に立たされている。「波佐見陶器まつり」が延期となり、都心部の百貨店などからの受注も激減。波佐見焼ブランドを守るため、関係者はウェブでの情報発信や販路拡大などを模索している。
 今月4日、多くの窯元が軒を連ねる陶郷・中尾山(中尾郷)。予定されていた陶磁器イベント「桜陶祭」が新型コロナの影響で中止になり、例年にぎわう集落は閑散としていた。様子を見に訪れた一瀬政太町長は絶句した。「まさかここまでとは…」
 その3日前に県内最大の陶磁器イベント「波佐見陶器まつり」の延期が決まったばかり。ある窯元は「都心部の受注が減り、市場が死んでいる。陶器まつりの延期で大量の在庫を抱えることになる」と肩を落とした。
 窯元でつくる波佐見陶磁器工業協同組合の松尾慶一理事長は「産地は窯元、商社、生地屋、陶土屋など中小業者の相互扶助で成り立つ。コロナ禍は全ての業種に影響し、分業体制の根幹を揺るがす」と危ぶむ。
 町も支援を始めた。売上が減った中小企業が融資を受ける際の保証料と3年間の利子を、町が補助する独自制度を創設。約30件を認定した。「収束した時、産業の担い手がいなくては意味がない」と担当者。基幹産業の苦境は、町の苦境そのものなのだ。
 そんな中、窯元の永峰製磁は「陶器まつり」と同時期に自社のオンラインショップで「ウェブ陶器市」を企画。インスタグラムで告知すると歓迎された。長崎隆紘代表は「家で過ごす時間が増え、家庭用食器の価値が見直されるかもしれない。チャンスととらえたい」と話す。
 佐賀県有田町の有田陶器市も「ウェブ有田陶器市」を予定しているが、こちらは一歩先を行く。出店業者の商品を一つのサイトに集約し、2千円以上買い物すると町が送料を負担する仕組み。業者間で、ネットによる販路拡大が熱を帯び始めている。
 波佐見焼振興会の山下雅樹事務局次長も同じような構想を練っている。「コロナ禍で、人々の生活スタイルは変わっていく。産地全体を集約し、新たな収入源となるような仕組みを構築したい」
 逆境を好機に変えられるか。産地の試練が続く。

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