健康と命、どう守る? 高齢者福祉の現場に突きつけられた難問

介護予防教室で距離を取ってカラオケを楽しむ利用者=北松佐々町

 新型コロナウイルスの感染拡大は、県内の高齢者福祉の現場にも影響を広げている。高齢者は特に重症化リスクが高いとされ、多くのお年寄りが集まる「介護予防教室」などを中止するケースが続出。しかし、それが逆に、元気なお年寄りの孤立や健康不安を招きかねず、現場は難問を突きつけられている。
 介護予防の「先進自治体」と言われる北松佐々町が揺れている。

◆佐々、集い再開
 町は住民と協力し、2008年から介護予防活動を積極的に展開。町内の要介護認定率はピーク時の21.5%(06年)から13.2%(18年)に下がり、18年には介護予防などに関する厚生労働大臣最優秀賞表彰を受けた。
 そんな「元気なお年寄り」の町を直撃したのが新型コロナ。「3密」を避けるため、町などは3月2日から約1カ月間、介護予防の集いの開催を中止した。ところが中止後、別の問題が持ち上がった。
 「認知症が進んだ気がする」「足腰が悪くなった」。町に、利用者の家族らからこうした声が複数寄せられるようになったのだ。町などは苦渋の末、一部の活動を減らして集いを再開。利用者の「駆け込み寺」と位置付けた。
 22日午前。北松佐々町の町福祉センターで開かれた集いではマスク姿の高齢者やスタッフたちが楽しそうに歌っていた。この日の利用者は5人で以前の6分の1程度。町と共同で取り組むボランティア団体「佐々町元気カフェ ぷらっと」の福田修三代表(72)は「どうにかして活動を継続し、お年寄りの健康と命を守っていきたい」と話す。

◆五島、戸別訪問
 介護サービスを受けていない独居高齢者の見守りをどう進めるか。
 五島市は今月上旬、市内41カ所でのミニデイサービス事業を中止したものの、すぐに、職員が独居高齢者宅への戸別訪問を始めた。佐々町と同じく「元気なお年寄り」に目を配るのが目的。島に帰省できない遠方の家族からの「代理訪問」の依頼も受け付ける。
 23日午後。市長寿介護課の川口拓馬さん(32)と生活支援コーディネーターの中村美保さん(46)が、同市三井楽町の90代女性を訪ねた。2人が「困っていることは?」と聞くと、女性は「寂しいこと。具合が悪くても、心配されるから誰にも言えない…」。雑談を交えながら、2人が日々の食事や体操の仕方などをアドバイスすると、「来てくれてありがたい」と女性は笑顔を見せた。
 見守り事業の対象は主に1人暮らしの85歳以上で、要介護認定などを受けていない人。感染予防のため原則玄関外で対応する。現在職員6人態勢だが、今後増員する予定。川口さんは「新型コロナを恐れて何もしないのではなく、安全に注意しながら最大限できることに取り組みたい」。
 ウイルスと老い。その両方からお年寄りを守ろうと現場が奔走している。

 


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