『Wの悲劇』 舞台上と客席の関係性に窓、カーテン、ドアが呼応

(C)KADOKAWA 1984

 公開時(1984年)から評価は高かったが、映画史的には薬師丸ひろ子がアイドルから脱皮を遂げた作品として記憶されているように思う。夏樹静子のミステリー小説を原作にしているものの、原作は劇中の舞台劇へと追いやられ、本筋で描かれるのは、劇団のスキャンダルを糧に研修生から女優へと脱皮していくヒロインの成長だ。それが劇中劇の殺人事件とリンクしていく脚本も秀逸だが、2本目の監督作となる澤井信一郎の演出手腕は、それ以上に冴えわたる。

 松田聖子主演の初監督作『野菊の墓』(81年)は、固定画面を基調とした古典的な佇まいの美しい映画だったが、本作では一転、計算された長回しのカメラワークが目を引く。とりわけ、ヒロインが劇団の看板女優から決断を迫られるホテルのシーンでは、長回しの効果が最大限に発揮され、我々観客もヒロインの葛藤をその場で共有しているかのような臨場感がある。

 そして、ヒロインと薬師丸自身の成長、舞台劇と本筋が巧妙にリンクする本作には、もう一つ強調したいリンクがある。それは部屋の窓やカーテン、ホテルのドアが、舞台上と客席(幕の内と外)の関係性と呼応するように機能していること。タイトルの「W」は、この映画が持つ二重性を指しているのではないかと思えてくる。80年代を席巻した角川映画、薬師丸、澤井監督、さらには先日他界した撮影の仙元誠三にとっても代表作となった本作は、今観ても全く色褪せていない。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:澤井信一郎

脚本:荒井晴彦

出演:薬師丸ひろ子、世良公則、三田佳子

5月11日(月)にNHK BSプレミアムで放送

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