『ブロークバック・マウンテン』『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』でアカデミー監督賞に2度輝く名匠アン・リーが、『ライフ・オブ・パイ』と昨年公開されたウィル・スミス主演のSFアクション『ジェミニマン』の間に撮った日本未公開作だ。2004年のイラク戦争で、撃たれた上官を助けようとして期せずして英雄となった19歳のビリー・リン。政府のプロパガンダに駆り出された彼の葛藤を通し、アメリカ社会や戦争の在り方を痛烈に問い掛ける。
アン・リーは、2度の監督オスカーに加え、外国語映画賞や、ベルリンとベネチアの国際映画祭でも最高賞を各2度ずつ受賞…と前人未到の実績を打ち立てている。フランスや台湾から勲章も授与されているのに、そこまでの大物感、巨匠感がないのはどうしてだろう？ 実際に本作も、主演が無名とはいえ脇をスターで固めているのに、日本では劇場公開に至らなかった。
一つには、アメコミ映画『ハルク』など賛否の割れる作品も少なくないことが挙げられる。本作も、日本公開が危ぶまれた『ウッドストックがやってくる！』を彷彿させる野心的なテイストに満ちている。だが、そこはアン・リーのこと。現在と過去、主人公の妄想が入り乱れながらも分かりづらさは微塵もなく、社会派でありながら、青春要素も盛り込まれていてエンターテインメントとしても楽しめる。外出自粛が続くこの機会に、ぜひチェックしてみて。★★★★★（外山真也）
監督:アン・リー
出演:ジョー・アルウィン、ギャレット・ヘドランド、ヴィン・ディーゼル、クリステン・スチュワート
5月16日（土）にBS12 トゥエルビで放送
