インターハイは中止

 佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」は高校の陸上部が舞台の青春小説だ。2007年には、全国の書店員が選ぶ「本屋大賞」にも選ばれた。先週末、イチニツイテ・ヨウイ・ドン…の3分冊を一気に読み返した▲スポーツはひたすら苦手だった身だが、登場人物のこんな決意の言葉は胸に突き刺さった。「私、どんなちょっとずつでもいいから速くなるね。ウサギにはなれないけど、足の速いカメになる」▲夏の全国高校総合体育大会(インターハイ)の中止が決まった。ウイルス禍の先が見通せない今は、やむを得ない決断である。しかし、夢や目標が幻になってしまった…そんな失意に掛ける言葉が探しても見つからない▲一方で、気になるのは県高総体の行方だ。ここが大目標で晴れ舞台で集大成…大多数はそんな高校生だ。全国への切符とは縁遠い場所で、それでも、ちょっとずつでも速く、昨日よりも今日は強く、と重ねた努力を思う▲「全国大会が中止だから、県大会も中止」「全国大会が中止だから、県大会は開く」-日本語は時々不思議だ。結論は正反対なのに、どちらも「だから」で自然につながってしまった▲ただ、言葉の熱さや温かさは大違いだ、とすぐに気付く。競技者本位の議論を期待したい。例えば、高総体の「総」はなくてもいい。(智)

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