飲みすぎる家族にどう注意する?危険な“グレーゾーン飲酒”が増加、自粛中の「家飲み新ルール」

コロナ禍での自粛要請に伴い、家にいることが多くなった働く人たちの間で“家飲み”が増えています。コンビニ・スーパーの酒類売上も増加。特に、手軽に飲めるビールの売り上げは、3月3週には前週比10.9%増を記録(酒類飲料日報2020年3月31日付、食品産業新聞社調べ)し、中には「ビールが通常の5倍も売れている」店舗もあるといいます。

しかし、楽しく飲んでいるうちに飲酒量が増え、気づけば、アルコール依存症の一歩手前の“グレーゾーン飲酒”にはまるということも。依存症に詳しい国立精神・神経医療保健センター・薬物依存研究部部長の松本俊彦先生に、正しい家飲みの方法についてオンライン取材でお話を伺いました。


メリハリのある生活が第一歩

――自粛下でオンライン飲み会などの家飲みが流行っています。しかし、オンライン飲み会は閉店時間がありません。つい、飲みすぎてしまう人が多いと聞きます。また、自粛による“ストレス飲み”以外に、夫婦でいると、盛り上がって毎日一緒に飲みすぎてしまうといった話も。飲酒量が増えれば、依存症のリスクも上がります。大丈夫でしょうか?

松本俊彦先生(以下同):非常に危ういと感じています。自宅近所のゴミ集積所でも、ビールの空き缶やワインの空き瓶が目立つようになりました。まるで年末年始のようです。お正月なら期間限定でいいのですが、すでにこの状態が1カ月も続いている。アルコールは、人類史上最古の、かつ非常にやっかいな依存性薬物だと改めて知っておいてほしい。

もうひとつ、コロナ感染が拡大する中で、多くの方にぜひ共有してもらいたい知識があります。そもそも「アルコールは免疫力低下を招く」ということです。コロナというと、重篤な肺炎を引き起こすことから、たばこに注目が集まっていますが、免疫力の低下という意味では、アルコールの影響も同様に深刻です。

お酒を飲むと、いわば免疫細胞も酔っ払ったような状態になる。白血球やリンパ球の機能が抑制され、ウイルスに対する抗原抗体反応(免疫反応)が起きにくくなってしまう。要するに、感染リスクが高くなるのです。

また、素面のときはいろいろな場所をやたらと触らないように注意し、手洗いもちゃんとするでしょう。でも、お酒が入るとあちこちを無意識に触ったり、手洗いも適当になりがち。ひそひそ話で顔をつきあわせたり。現在、家庭内感染の危険が高まっているフェーズなので、感染予防の意味でも、家飲みでもお酒の飲み方や量には十分な注意が必要です。

――具体的に、どのように注意したらいいですか?

「毎日飲むから即アル中」というわけではありませんが、夜昼関係なくダラダラと飲酒が習慣化するようになると、依存症のリスクが上がります。今の状況下で、飲酒が習慣化しないようにするには、リモートワークでも仕事のON・OFFのメリハリをしっかりつけること。

とりあえずでも「自分はこういうスケジュールでやって行く」というのを早めに決めましょう。決めずに不規則な生活を続けていると、そのうち、休む時間帯であるべき夜に仕事をするようになります。同時に、お酒を飲みながら仕事をするようになる。そのうち、日中でも、ちびちびと飲みながら仕事をするようになる。こうなると、もう手がつけられない。生活リズムがどんどん崩れて、お酒だけでなくゲームなどにも依存しやすくなります。

特に自宅で飲んでいると、終電や歩けずに帰れなくなることを気にしなくていい。飲みすぎても、あとはベッドになだれ込むだけなので、気づくとスウェットで昼も夜も暮らすみたいになってしまう。それがいけない。いつまでこの状況が続くかもわかりません。長期化する中で、問題がこじれていかないよう、早めの対策を取るべきです。

飲みすぎの目安とは?

――飲んでもいい量の目安は?

ローリスク・ドリンキング(適正飲酒)の基準は、日本酒1合です。例えば、甘くて飲みやすく人気の「ストロング系チューハイ」の500ミリ缶を1本飲むとします。これを日本酒換算(注)すると、1.5合。ゆえに、週1回でもストロング系チューハイを1本丸々飲むのは好ましくない。1合未満が望ましい目安となります。ストロング系チューハイは、アルコール度数が高いのに、つい飲みすぎてしまうので、できれば避けてほしい。

でも、こう言われると「1本だけでもダメなの?」とうんざりしてしまう人もいるでしょう。ならば、ぜひとも2合ぐらいでやめておいてほしい。3合、つまりストロング系チューハイを2本丸々飲んでしまうのは、実はとても危険なのです。

厚生労働省による多量飲酒者の定義は、日本酒換算で3合です。週1回でも3合に達するような飲み方をすると、依存症になりやすいのはもちろん、様々な内臓疾患を併発しやすくなる。どんなことがあっても、3合を超えた飲み方をすべきではありません。お酒の量を日本酒換算するクセをつけていただくとよいです。

注)日本酒に含まれているアルコール成分のうち純アルコールの量は、1合につき18グラム〜20グラム。ストロング系チューハイ500ミリのアルコール度数が9%だとすると、1缶でアルコール量は45グラム。アルコールと水では比準が異なるため、さらにそこに0.8%をかけると、純アルコールの量は36グラムになる。つまり、ストロング系チューハイ500ミリを1缶飲むと、日本酒1.5合飲んでいることになる。

――家族と一緒に住んでいる人は、妻が夫に、夫が妻に注意をうながしたりできますね。でも、実際、注意するのは家族でも難しいときがあります。「せっかくの楽しみを奪いたくない」など。家族の一人が飲みすぎだと思ったら、どう注意したらいいでしょう?

よくあるのが、奥さんが心配のあまり、夫に口うるさく言ってしまうケースです。でも、残念ながら注意するのは、さほど有効ではないのです。特に、相手が酔っているときに注意をすると、言われた相手もお酒のせいでキレやすくなっています。

翌朝などお酒が抜けたときや素面のときに、穏やかに責めずに話し合ってみてください。例えば、「私はこの生活の中で、ダラダラしないように●時までは仕事に集中したい。でも、●時〜●時は、あなたとお酒を楽しむ時間したいのだけど、あなたはどう?」と、提案の形をとってみる。

今、社会的距離を保とうということで、家族全員が家にいて、逆に家の中は密になっています。四六時中、顔をつき合わせていると、どんなに仲良しでも衝突は起きやすい。「こんなに、だらしない人だったのかしら」とか「ゲームばっかりして」とか、いつも家族の誰かに苛立っている状態が生じがちです。そこにお酒が入ると、余計に衝突しやすくなる。無用な衝突を避けるためにも、お酒の扱いに注意が必要です。

「他人の目」がない一人暮らしの対処法

――独身など「他人の目」がない人は、どう注意すれば? 自制心だけでは、解決できそうにありません。

その通りです。そのため、実のところ、医師としてはオンライン飲み会は、あまりお勧めできない、少なくとも細心の注意を払って行ってほしいと思います。一方で、1日のどこかの時間に、仲の良い友達とまさにオンラインで少しコミュニケーションをする。そういう時間を作るのは非常にいいことです。その時間を軸にして、自分なりのスケジュールや生活リズムを作る。

話すときは、お互いに生活をチェックし合うというよりは「こんな風に今日は過ごしたよ」とお互いに励まし合う。自粛が解除された時にスムーズに元の社会生活に戻れるように、 「健康状態や生活リズムを維持していこうね」と、お互いを元気づけることが必要だと思います。

――それは、とても心に効きそうです。友達の力を借りる。

この状況は、いわば突然訪れた長い夏休みとか春休みみたいなもの。どうやって過ごしたらいいか、実はみんなよくわからない。若者であれば、「いっそのこと、いつもはできないことをやろう!」と思いっきり飲んでみたりしがちです。楽しくてウキウキしたり、好奇心で飲んでしまうのは、通常であれば、そのうち、飽きてやめる。長続きはしません。

ただ、これに端を発して、その後、ダラダラと飲酒が習慣化していくようなら、背景に先の見えない不安やストレスがあると考えられます。自分の不安な気持ちを覆い隠すためについ飲んでしまう。ですから、素面のときに、ソーシャルメディアを使って、そうした不安を友達に話すというのは、飲みすぎを事前に防ぐ対処法として非常に有効です。アルコール依存症の克服に、グループワークをする自助会の力が欠かせないのと同じです。

社会人であれば、仕事が忙しくてスキルアップのために勉強する時間が取れなかったから、「こういうときこそ、勉強を!」と思うかもしれません。でも、世界中で仕事が止まっている状態で、ライバルたちもみんな、お休み。「今ここで出し抜くぞ」という気持ちに、実際はなかなかなれないでしょう。

何もしない手持ちぶさたの時間が続くと、つい食べたり飲んだり。冷蔵庫にお酒があれば、気分を上げるために、お茶代りにお酒を飲んでしまいやすい。「たまたま冷蔵庫に入っていたのが、お酒」にならないよう、あらかじめ、お茶やノンアルコール飲料を用意しておくのも、飲酒を防ぐ対処法のひとつです。人によっては、炭酸水のような、ソフトな刺激のある飲料でもいいかもしれません。

ダラダラ飲んでしまう人の無意識ストレス

――そもそも、「飲みたい」「酔いたい」と思う人と、そうでもない人の違いはどこにあるのですか?

ダラダラと飲んでしまうというのであれば、先ほど言ったように、その裏には、やはり何らかのストレスがある。今、どの人も自分の人生の計画が一回止まっている状態ですよね。いつ再始動するのかもわからない。再始動したとして、これまでの連続線上に人生が続くのかも未知数です。不安なので、あまり、先のことを考えたくないから、酔いたいとなるのではないでしょうか。

もう一つは、不安や怒りなど嫌な感情を遠ざけるために、早く時間が過ぎてほしいから酔いたいというのがあるでしょう。しんどい時間は過ぎるのが遅く感じます。今、家族以外とは会いづらい状況ですが、家族にもいろいろあり、その中で孤独な時間を抱えていると、早く時間が過ぎないかなと思って、つい飲んでしまう。

――自分の負の感情も、ごまかさず、できるだけ自覚的でいないといけませんね。「すでに依存症気味かも…」という人は?病院への外出もしにくい状況です。

都道府県政令指定都市には少なくとも一つは、「精神保健福祉センター」が設置されています。管轄内に住民票があれば、誰でも無料で電話相談を受けられます。確かに、今は対面での相談は控えているかもしれませんが、電話であればちゃんと相談に対応してくれます。自分の住んでいる場所のセンターはどこかをまずは確認していただければと思います。

また、自助グループへの参加は依存症からの回復に欠かせないものですが、ミーティングの会場が、公民館など公的な施設を使うことが多く、今それらは使えません。一方で、リアルで繋がりのない人たちも参加できる“オンラインミーティング”が、急ピッチで立ち上がり始めています。ASK (アルコール薬物問題全国市民協会)などが、Twitter や SNS でオンラインミーティングの情報をどんどん発信してくれています。困ったら、ぜひアクセスしてみてください。

――最後に、改めて、今、家飲みで飲酒量が増えている方にメッセージを。

繰り返しになりますが、家族間が密で一触即発の状態の中にお酒が入ると、本当にいろいろなことがこじれやすい。それで、コロナ離婚のように夫婦仲が壊れるのは、まだ仕方がないでしょう。でも、子供がいた場合、最も被害を受けるのは子供です。お酒をたくさん飲むライフスタイルは、この時期を過ごす方法として本当に有利なのか。ぜひ一度考えてみていただけたらと思います。

松本俊彦(まつもと・としひこ)
国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部部長。1967年生まれ。佐賀医科大学医学部卒業。神奈川県立精神医療センター医師、横浜市立大学医学部附属病院精神科助手、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター自殺予防総合対策センター副センター長/薬物依存研究部診断治療開発研究室長などを経て、2015年より現職。『アルコールとうつ・自殺』(岩波ブックレット)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『もしも「死にたい」と言われたら』(中外医学社)、『薬物依存症』(ちくま新書)、『「助けて」が言えない』(日本評論社)など著書多数。

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