新型コロナ、ライフスタイル見直すきっかけに 地方に多様性、元自然保護官の横山昌太郎さん

インタビューに応じる横山昌太郎さん=4月20日、香川県まんのう町

 新型コロナウイルスがもたらす厄災が社会全体を覆っている。とりわけ人口密度の高い大都市の住民は日常生活で人との接触を避けるのが難しく、ストレスは増大する一方だ。国立公園で自然保護官(パークレンジャー)として働き、現在は香川県で森のガイドを務める横山昌太郎さん(48)は、今回の危機は人々がライフスタイルを見直すきっかけになると考えている。持論を聞いた。(共同通信=浜谷栄彦)

 ―現在の社会状況をどう見るか

 「生物として人間を見た場合、人口が大都市に偏り過ぎている。街中に密集するのは安心な暮らし方だろうか。たしかに大都市だと効率よく稼げるし、利便性も高い。ただ災害などで経済が停滞して収入や物流が途絶えた瞬間、都市部は地方よりも過酷な状況に陥りやすいと思う。稼ぐことは大切だが、全てではない。お金の利便性に頼り過ぎず、日本に豊かに存在する自然の恵みや地域のコミュニティーとのつながりを生かしたライフスタイルも必要ではないか。まずはそれぞれの人にとっての『理想のライフスタイル』、つまり本当に大切なものは何か、それらを大切にできる生き方を改めて考えてみる必要がある」

 「地方は稼ぎが少なく不便かもしれない。それでも経済性を最優先にしないライフスタイルならば、心にゆとりを持ちやすく、生き方に弾力性が生まれる。近年の社会では働くことは雇われることと捉えられがちで、実際に就業者の9割は雇われている人という状況だが、働き方(稼ぎ方)も多様性があるほうがいい。一部の人がやっているように起業や兼業で複数の仕事を掛け持ちすることで生活が破綻するリスクも小さくできる」

 ―自然から学べることは

 「私たちは人間社会の中だけで物事を考えがちだが、森に出掛けてその仕組みや生き物に目を留めると、学ぶことが多い。生態系の中では草木や動物それぞれに独自の生存様式があり、『唯一正しい』スタイルなどはない。森の豊かさのベースは生命の『多様性』と多様な生命をつなぐ物質やエネルギーの『循環』であり、その多様性と循環があるからこそ自然界のバランスが保たれている。

 私たちは数十億年という進化を経て今日に至った自然の仕組みに目を向けることで、人の生き方、社会の在り方の方向性を学べるのではないか。大きな話になってしまうが、必要以上の欲求の充足と経済性を追求してきた結果、人類は地球の中では明らかにアンバランスな生物となってしまった。人類が生き残っていくためにも、自然や地球環境に対する人類の影響とその対策について真剣に考えなければならない。私たちにはその知恵と理性が授けられている」

 「最近、ソロキャンプが人気だ。なぜ都会で便利な暮らしを送る人が自然に向かうのか。物がほとんどない環境に身を置き『今ここに自分が生きている』という実感を得られることも一つの理由ではないだろうか。今こそ、自分の内面と向き合い、『本当に必要なものはなにか』を考える時間を持つことが有益かつ必要だろう」

自宅脇に生えた雑草「カラスノエンドウ」を手に取る横山昌太郎さん=4月20日、香川県まんのう町

 ―自身は東京から地方に移住した

 「私は霞が関の環境省で、国立公園や野生動物の法規制に関する書類仕事に携わった。残念ながら性に合わず、労働時間も長かったので心身ともに疲弊してしまった。自分の生き方を変えるため、また、人を外から法で縛るのではなく、内面から自然を好きになってもらいたいと考えガイドに転じた。今は必要な分だけお金を稼ぐライフスタイルで暮らしつつ、森の案内を通じて社会や人々に貢献したい」

 「人間も他の動物と同じように自然の中でバランスを保って生きるなら、大都市に集中せず、もっとそれぞれの地域に根づいた小集団となって分散した方が、個人にとっても社会にとってもいいと思う。食やエネルギーをある程度地産地消できる地域社会が理想だ。現在のテクノロジーがあれば地方でもかなりの仕事はできるし、経済性だけでなく幅広い見地から地域社会の在り方や人々のライフスタイルを生み出していく必要がある」

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 横山 昌太郎(よこやま・しょうたろう) 1971年生まれ。名古屋大学大学院を卒業後、97年、技官として環境省入省。岩手県や栃木県で自然保護管として働いた。2006年に退職し、長野県軽井沢町の森をフィールドとして、星野リゾートのエコツアー団体のガイドを務めた。17年に移住した香川県でもガイドを続けている。三重県出身。

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