道玄坂から消えた中国人女性客引き 「マッサージイカガテスカ」攻撃がないのは有難いが…|中川淳一郎

今でこそお洒落になったが…(写真・編集部)。

渋谷に通い続けて22年ほどが経ったが、時代が平成から令和になり、「あいつらはどこへ行ったんだ?」と思うのが中国人女性の客引きである。多分今から10年ぐらい前だと思うのだが、道玄坂の両側の歩道は南側(駅を背にして左側)も北側(同右側)にあるロッテリア及びPRIMEをこえたあたりから、ズラリと中国人女性が並んでいたのだ。

基本的にはマッサージ店の客引きなのだが、一人で歩く男に次々と声をかけていく。無視して歩いても50メートルぐらいは平気でついてくる。言うセリフは大抵以下だ。まずは「マッサージイカガデスカ」に始まる。そしてこう続く。

「キモチイイヨ」
「オニイサン、カコイイネ」
「オニイサン、ツカレテルネ」
「ジョウズナコ、イッパイイルヨ」

これでも無視すると「スペシャルサービスアルヨ」と来る。スケベな男はここで交渉に入るのだが、基本的なマッサージであれば30分~40分で4500円~5500円ほどで、スペシャルサービスの場合はここに1万円が追加される。要するに「本番」のことだ。

大抵はマンションの一室のような場所がマッサージ場になっており、他の部屋に待機している中国人女性がやってくる。客引きはその店でも美形がやっていることが多く、スケベな男は「おっ、この娘がオレとお手合わせしてくれるのかな」なんて思うとその女性は前金のカネを回収すると再び道玄坂に戻り、新たな客を見つけようとするのだ。

かくしてマッサージの腕はたいしたことがないものの、その後の「本番」だけを目当てに日々男達は客引きについていくのであった。当時は西川口の「NK流」も終わっており、「本番をするなら渋谷の中国人マッサージ店」といった情報も流れており、あそこまで多くの客引きがいたのだと思う。

こうしたマッサージ店の客引きと店員は地元の事情通中国人(居酒屋店員)によると、黒竜江省出身が多いのだという。北京や上海といった発展する都会ではなく、田舎からやってきた女性がカネを稼ぐために来日していたそうだ。

私は百軒店にあるスナックの常連だったため、イヤでも道玄坂を上がらなくてはいけなかったのだが、不思議なもので、中国人女性をこれだけ多数見ると日本人と韓国人と中国人の違いが一瞬で見抜けるようになった。中国人はなんというか、日本人と韓国人(特に日本人)とは異なり「修羅場をくぐった」風の目をしているのである。

常に何かを警戒しており、一人佇む時も厳しい目つきで客を見定めている。そして、格好については、冬はダウンジャケット風のものを着ている人が多いのですぐに分かる。ファーがついている場合も多い。スカートはほぼはいておらず、パンツ姿が多かった。

そして、困ったことに私はとにかく毎度数名から客引き攻撃に遭うのだ。イケメンと二人でスナックに行く時、試しに彼と私とを分かれて歩いたことがある。「果たしてどちらに声をかけるか」という勝負なのだが、150メートルほどの間で私は5人から声をかけられ、イケメンは1人からも声をかけられなかった。

よっぽどモテないかスケベだと思われたのであろう。

今でも道玄坂には何軒かのマッサージ店はあるが、客引きはまったく見なくなった。それは同時に中国人にとって日本がカネを稼ぐために「おいしい」市場ではなくなったことを意味しているのかもしれない。

正直、あの「マッサージイカガデスカ」攻撃がなくなったのは有難いが、日本がもはや儲けられる場所ではないと判断されたようにも感じられてしまうのである。(文・中川淳一郎 連載「俺の平成史」)

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