村上龍「だいじょうぶマイ・フレンド」耳に残る主題歌とクレイジーな映画 1983年 4月29日 村上龍監督作品「だいじょうぶマイ・フレンド」が劇場公開された日

期待度マックス! ピーター・フォンダ主演「だいじょうぶマイ・フレンド」

母星であるクリプトン星に帰ろうとするが、パワーを失って地上に墜落したスーパーマンのお話。何だか面白そうだと思った。

スーパーマンを『イージー・ライダー』のピーター・フォンダがやるって? しかもかわいい日本の女の子がスーパーマンに恋しちゃうって? へぇ~イイじゃん。その上、テレビから流れる主題歌の優しい響き。ヤバい! コレ、マジで観に行きたい。期待度は MAX! ほぼ CM や歌番組によるパワープレイで僕はなかば強引に劇場へ引き寄せられた。映画『だいじょうぶマイ・フレンド』(83年)は、村上龍が自身の小説を自ら監督した作品である。『限りなく透明に近いブルー』(76年)で第75回芥川賞を受賞し、衝撃的なデビューを飾った天才作家が二度目のメガホンを取ることで話題となった。

ヒロインは広田玲央名、脳内に何度も鳴り響く主題歌も!

おーーっと、映画が始まった途端にヒロイン広田玲央名の大胆なヌードである。しかも画面いっぱいにグラマラスな肢体が映し出される。うおッ、眩しいッ!! 実のところオープニングシーンはニューヨークで水兵と女が踊るミュージカルシーンだったようだが、それをすっかり忘れてしまうくらい強烈な印象。出し惜しみなく晒された19歳のボディはボッキュンボン。若いってホント素晴らしい。まるでカリフォルニアのビーチにいるトップレスの女の子のよう。ピチピチと今にも弾けてしまいそうな肌に目が釘付けとなった。そして、忘れちゃいけない。バレエで鍛え抜かれたダンスの美しさ――

そんな彼女が歌う主題歌ならば、もう買うしかあるまい。そうして私の自室の部屋の隅でこのシングル盤は何十年もの間存在し続けている。盤に針を落とすまでもない。想いを巡らせば、脳内でこの曲は何度でも鳴り響く。

 だいじょうぶ マイ・フレンド
 だいじょうぶ マイ・フレンド
 決して 1人じゃない この世界
 だいじょうぶ マイ・フレンド

80年代に青春を過ごした人間にとってこの曲が耳に残っている人は意外と多いんじゃないだろうか。シングルは広田玲央名、乃生佳之、渡辺裕之、加藤和彦の4バージョンがあり、これは東芝EMI、キャニオン、CBSソニー、キティレコードから同時発売されるという一大プロジェクトだった。

音楽監督は加藤和彦、豪華すぎるサントラに反したクレイジーな迷作

サウンドトラックも実に豪華。音楽監督は加藤和彦。作曲に清水信之、来生たかお、桑田佳祐、坂本龍一、高中正義。作詞に安井かずみ、来生えつこ、クリス・モスデル。シンガーとして上田正樹やリチャード・ライトも参加している。しかし、この映画、劇伴の素晴らしさに反して、ちょっとググればわかるように “最も忘れたい映画” “全くだいじょうぶじゃない映画” などと酷評される迷作なのだ。

「電気チェーンソー、電気ドリル… 腋の下、✕✕タマ嚢ウラ側の皮、剥ぎ取る」
「お願いだ!… マ×××ベーションさせて。ダメ? 最後の望みなんだぜ」

等々…『ポリアカ』(※1)を髣髴とさせるおバカなセリフの数々。しかもクライマックスシーンで、ピーター・フォンダが演じるこのスーパーマン、弾より速いザー〇〇をマ×××ベーションで発射する。それが見事に命中して悪の組織のロケットがドカ~ン!

とにかくこの映画はクレイジー。豪速球を投げようとして、予想外の方向へと気持ちが良いくらい綺麗に球がすっぽ抜けるのである。

目指すは明るい日本映画、村上龍が全力投球したハリウッド風コメディ

村上龍は同作について映画パンフレットのインタビューでこんなことを話している。『(アメリカングラフティを観て)女の子に愛を伝えるときに “オンリー・ユー” のあるアメリカって、なんて素晴らしいんだろうって。日本じゃ “りんごの歌” くらいしかないもんね。僕自身だって断然 “オンリー・ユー” の方がいいと思うもの』そんな気分で村上サンが日本を明るくしようとかなり本気で作ったハリウッド風コメディ。

そう、これは型にハマることで安心しようとする、マジメ過ぎる日本人へのアンチテーゼなのだ。「だいじょうぶ、マイ・フレンド。俺たちアメリカの奴らに負けないぐらい、もっともっと自由にバカやってもいいんだぜ!」この作品で、そんなことを僕たちに言いたかったんじゃないか――

いや、「だいじょうぶじゃない!」などと言うなかれ! 新型コロナウィルスのパンデミックで暗くなった2020年だからこそまた観てみたい、スコーンと抜けてるお気楽映画の決定版なのだ。

※1:米国のコメディ映画『ポリスアカデミー』の略称。おバカ映画の決定版。

※2017年3月17日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 鎌倉屋 武士

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