<隠れた名盤>城南海『One』 編曲の妙を得て初めての感覚

 オリジナル5thアルバム。タイトルは、10周年を超え新たな幕開けの第1章なのか、あるいは唯一無二という意味なのか。これまでの“奄美出身の歌姫”や“カラオケバトル王者”といった明解なイメージでは語れない作品だ。

 10曲を聴いて、ザ・ハイロウズでも活躍したドラマーの大島賢治が全編曲を担当した事が、一筋縄ではいかぬ作品となった要因のように感じた。例えば、親友を優しく励ます歌詞の『ONE』はバラードかと思いきや、ハンドクラップの入った躍動的なポップスだし、恋が再燃する様子をガーリーに描いた『タピオカ』も、打ちこみ系のスリリングな雰囲気で、本当にそれが幸せなのか?と聴き手に考えさせるのだ。

 勿論、生楽器中心、美しい日本語、何より上質感のある歌声という基本線は一切ブレていない。実際、辛島美登里作詞・作曲の『恋雨~Len Rain~』は、マンドリンの演奏も相まって洋画のワンシーンのように色香が立っているし、川村結花作詞・作曲の『行かないで』は、別れの場面の強がりでさえ無様にならない。その上で、予定調和ではない編曲が、城の声をこれまで以上にクールに響き、なんだか初めての感覚なのだ。

 ラストは、レゲエのリズムに合わせて本人が三味線を演奏しながら幻想的に歌う『おやすみ』。本作を聴けば、新たな環境に身を置くことを、新たな自分に出会えるチャンスかも、と前向きに捉える勇気をもらえるはず。

(ポニーキャニオン・通常盤 2800円+税)=臼井孝

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