<ブレーク盤>田村芽実『無花果』 楽曲ごとに主人公演じ分ける

 アイドルグループを卒業し、現在は舞台俳優としても活躍する98年生まれの女性による初のフルアルバム。ソロデビューから約1年半で、歌唱力が飛躍的に増し、『ガラスの仮面』の月影先生も「おそろしい子!」と驚愕しそうだ。

 3枚のシングル『輝いて』『魔法をあげるよ』『舞台』(どれも曲想や歌唱がドラマティック!)を含む全12曲を収録。1曲目から、ツンデレキャラの早台詞と弾むような歌声の対比が面白い『無形有形』、「花束なんかにならない 私らしく咲かせる蕾」と上品かつ愛らしく歌う『いちじく』、スウィングジャズの演奏で挑発的に歌う『わたしたちの冤罪』など、楽曲ごとに主人公を演じ分ける。特に6曲目『誓約』は、命がけの愛をテーマに、淋しく語るような前半からラストの絶唱までの変容ぶりが見事で鳥肌が立った。

 後半は、『闇夜だけこんばんわ』『毎日女の子』など、作りこまない声で少女の気持ちを繊細に歌い、おとぎ話を想起させる編曲も相まって、中世ヨーロッパ風の宮殿衣装が思い浮かんだ。ピアノと弦楽器中心のバラード『ユリシス』での「強い魔法が」「私を揺さぶるの」という歌詞も彼女なら全く違和感がない。前半は本田美奈子.、後半は斉藤由貴など、表現力重視の80年代アイドルのファンにもおススメしたい。

 DVDはブティック・ディレクター赤澤えるとの対談で、夢を追う女性たちは大いに共感しそう。邁進し続ける田村の魅力に触れると、もっともっと自分の可能性を信じてあげたくなるはず。

(ビクター・CD+DVD初回限定盤 3818円+税)=臼井孝

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